労働安全規制と国家賠償責任
(平成26年10月9日最高裁)
事件番号 平成26(受)771
この裁判では、
労働安全規制と国家賠償責任について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,
その権限を定めた法令の趣旨,目的や,
その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,
その不行使が許容される限度を逸脱して著しく
合理性を欠くと認められるときは,
その不行使により被害を受けた者との関係において,
国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である。
これを本件についてみると,旧労基法は,
労働者が人たるに値する生活を営むための
必要を充たすべきものとして
労働条件を確保することを目的として(1条),
使用者は粉じん等による危害防止等のために
必要な措置を講じなければならないものとし(42条等),
安衛法は,職場における労働者の
安全と健康の確保等を目的として(1条),
事業者は労働者の健康障害の防止等のために
必要な措置を講じなければならないものと
しているのであって(22条等),
使用者又は事業者が講ずべき具体的措置を命令又は
労働省令に委任している(旧労基法45条,安衛法27条)。
このように,旧労基法及び安衛法が,
上記の具体的措置を命令又は労働省令に包括的に委任した趣旨は,
使用者又は事業者が講ずべき措置の内容が,
多岐にわたる専門的,技術的事項であること,また,
その内容を,できる限り速やかに,技術の進歩や
最新の医学的知見等に適合したものに改正していくためには,
これを主務大臣に委ねるのが適当であるとされたことによるものである。
以上の上記各法律の目的及び上記各規定の趣旨に鑑みると,
上記各法律の主務大臣であった労働大臣の上記各法律に基づく規制権限は,
粉じん作業等に従事する労働者の労働環境を整備し,
その生命,身体に対する危害を防止し,
その健康を確保することをその主要な目的として,
できる限り速やかに,技術の進歩や
最新の医学的知見等に適合したものに改正すべく,
適時にかつ適切に行使されるべきものである。
本件における事情を総合すると,労働大臣は,
昭和33年5月26日には,旧労基法に基づく
省令制定権限を行使して,罰則をもって石綿工場に
局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり,
旧特化則が制定された昭和46年4月28日まで,
労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を
行使しなかったことは,旧労基法の趣旨,目的や,
その権限の性質等に照らし,著しく合理性を欠くものであって,
国家賠償法1条1項の適用上違法であるというべきである。
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