大学における授業科目の単位授与(認定)行為に司法審査は及ぶか
(昭和52年3月15日最高裁)
事件番号 昭和46(行ツ)52
この裁判では、
大学における授業科目の単位授与(認定)行為に
司法審査は及ぶかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
大学は、国公立であると私立であるとを問わず、
学生の教育と学術の研究とを目的とする教育研究施設であって、
その設置目的を達成するために必要な諸事項については、
法令に格別の規定がない場合でも、学則等によりこれを規定し、
実施することのできる自律的、包括的な権能を有し、
一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成しているのであるから、
このような特殊な部分社会である大学における
法律上の係争のすべてが当然に裁判所の司法審査の対象になるものではなく、
一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な
問題は右司法審査の対象から除かれるべきものであることは、
叙上説示の点に照らし、明らかというべきである。
そこで、次に、右の見地に立って本件をみるのに、
大学の単位制度については大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)が
これを定めているが、これによれば
(ただし、次に引用の条文は、いずれも
昭和45年文部省令第21号による改正前のものである。)、
大学の教育課程は各授業科目を必修、選択及び自由の各科目に分け、
これを各年次に配当して編成されるが(28条)、
右各授業科目にはその履修に要する時間数に応じて
単位が配付されていて(25条、26条)、
それぞれの授業科目を履修し試験に合格すると
当該授業科目につき所定数の単位が授与(認定)されることに
なっており(31条)、右教育課程に従い大学に四年以上在学し所定の
授業科目につき合計124単位以上を修得することが
卒業の要件とされているのであるから(32条)、
単位の授与(認定)という行為は、学生が当該授業科目を
履修し試験に合格したことを確認する教育上の措置であり、
卒業の要件をなすものではあるが、
当然に一般市民法秩序と直接の関係を
有するものでないことは明らかである。
それゆえ、単位授与(認定)行為は、
他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを
肯認するに足りる特段の事情のない限り、
純然たる大学内部の問題として
大学の自主的、自律的な判断に委ねられるべきものであって、
裁判所の司法審査の対象には
ならないものと解するのが、相当である。
所論は、現行法上又は社会生活上単位の取得それ自体が
一種の資格要件とされる場合があるから、
単位授与(認定)行為は司法審査の対象になるものと解すべきであるという。
しかしながら、特定の授業科目の単位の取得それ自体が
一般市民法上一種の資格要件とされる場合の
あることは所論のとおりであり、
その限りにおいて単位授与(認定)行為が
一般市民法秩序と直接の関係を有することは否定できないが、
そのような場合はいまだ極めて限られており、
一部に右のような場合があるからといって、
一般的にすべての授業科目の単位の取得が
一般市民法上の資格地位に関係するものであり、
単位授与(認定)行為が常に一般市民法秩序と
直接の関係を有するものであるということはできない。
そして、本件単位授与(認定)行為が
一般市民法秩序と直接の関係を
有するものであることについては、
上告人らはなんらの主張立証もしていない。
してみれば、本件単位授与(認定)行為は、
裁判所の司法審査の対象にはならないものというべく、
これと結論を同じくする原審の判断は、結局、正当である。
論旨は、右説示と異なる見解に立って原判決の違法をいい、
それを前提として原判決の違憲をいうものであって、
採用することができない。
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