市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとされた事例
(平成21年11月26日最高裁)
事件番号 平成21(行ヒ)75
この裁判では、
市の設置する特定の保育所を廃止する条例の制定行為が、
抗告訴訟の対象となる行政処分に当たかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
市町村は,保護者の労働又は疾病等の事由により,
児童の保育に欠けるところがある場合において,
その児童の保護者から入所を希望する保育所等を記載した
申込書を提出しての申込みがあったときは,
希望児童のすべてが入所すると適切な保育の実施が
困難になるなどのやむを得ない事由がある場合に
入所児童を選考することができること等を除けば,
その児童を当該保育所において
保育しなければならないとされている
(児童福祉法24条1項~3項)。
平成9年法律第74号による児童福祉法の改正が
こうした仕組みを採用したのは,
女性の社会進出や就労形態の多様化に伴って,
乳児保育や保育時間の延長を始めとする
多様なサービスの提供が必要となった状況を踏まえ,
その保育所の受入れ能力がある限り,
希望どおりの入所を図らなければならないこととして,
保護者の選択を制度上保障したものと解される。
そして,前記のとおり,被上告人においては,
保育所への入所承諾の際に,
保育の実施期間が指定されることになっている。
このように,被上告人における保育所の利用関係は,
保護者の選択に基づき,保育所及び保育の実施期間を定めて
設定されるものであり,
保育の実施の解除がされない限り(同法33条の4参照),
保育の実施期間が満了するまで継続するものである。
そうすると,特定の保育所で
現に保育を受けている児童及びその保護者は,
保育の実施期間が満了するまでの間は
当該保育所における保育を受けることを
期待し得る法的地位を有するものということができる。
ところで,公の施設である保育所を廃止するのは,
市町村長の担任事務であるが(地方自治法149条7号),
これについては条例をもって定めることが
必要とされている(同法244条の2)。
条例の制定は,普通地方公共団体の議会が
行う立法作用に属するから,
一般的には,抗告訴訟の対象となる
行政処分に当たるものでないことはいうまでもないが,
本件改正条例は,本件各保育所の
廃止のみを内容とするものであって,
他に行政庁の処分を待つことなく,
その施行により各保育所廃止の効果を発生させ,
当該保育所に現に入所中の児童及び
その保護者という限られた特定の者らに対して,直接,
当該保育所において保育を受けることを期待し得る
上記の法的地位を奪う結果を生じさせるものであるから,
その制定行為は,行政庁の処分と
実質的に同視し得るものということができる。
また,市町村の設置する保育所で
保育を受けている児童又はその保護者が,
当該保育所を廃止する条例の効力を争って,
当該市町村を相手に当事者訴訟ないし民事訴訟を提起し,
勝訴判決や保全命令を得たとしても,
これらは訴訟の当事者である当該児童又は
その保護者と当該市町村との間でのみ
効力を生ずるにすぎないから,
これらを受けた市町村としては
当該保育所を存続させるかどうかについての
実際の対応に困難を来すことにもなり,
処分の取消判決や執行停止の決定に
第三者効(行政事件訴訟法32条)が認められている
取消訴訟において当該条例の制定行為の適法性を
争い得るとすることには合理性がある。
以上によれば,本件改正条例の制定行為は,
抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。
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