農業委員会による買収計画および売渡計画の職権取消し
(昭和43年11月7日最高裁)
事件番号 昭和39(行ツ)97
この裁判では、
農地の売渡処分完了後において農業委員会のした
当該農地の買収計画および売渡計画の取消処分の
有効性について裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
自作農創設特別措置法の規定に基づく
農地の買収計画、売渡計画のごとき行政処分は、
それが一定の争訟手続に従い、
なかんずく当事者を手続に関与せしめて
紛争の終局的解決が図られ確定するに至った場合は、
当事者がこれを争うことができなくなることはもとより、
行政庁も、特別の規定のない限り、それを取り消しまたは
変更し得ない拘束を受けるに至るものであることは、
当裁判所の判例とするところであるが、
原審の適法に確定したところによれば、
本件においてはそのような争訟手続による
終局的解決がなされておらず、
D農業委員会のした前記取消処分は、
自作農創設特別措置法の規定による争訟手続としての
異議申立期間を経過した後における
訴外Fよりの買収計画に対する
事実上の異議の申出を契機として、
同委員会のした調査に基づきなされたものであり、
従って、前記取消処分の客体となった本件買収計画および売渡計画は、
前記のような特別の規定のない限り
行政庁が自らそれを取り消しまたは
変更し得ない拘束を受けるに至った場合に該当する
行政処分でないことが明らかである。
しかして、このような場合においては、
買収計画、売渡計画のごとき行政処分が違法または不当であれば、
それが、たとえ、当然無効と認められず、また、
すでに法定の不服申立期間の徒過により争訟手続によって
その効力を争い得なくなったものであっても、
処分をした行政庁その他正当な権限を有する行政庁においては、
自らその違法または不当を認めて、処分の取消によって生ずる不利益と、
取消をしないことによってかかる処分に基づき
すでに生じた効果をそのまま維持することの不利益とを比較考量し、
しかも該処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし
著しく不当であると認められるときに限り、
これを取り消すことができると解するのが相当である。
しかも、自作農創設特別措置法の規定に基づく農地買収は、
個人の所有権に対する重大な制約であるところ、
かかる重大な制約は、その目的が自作農を創設して
農業生産力の発展と農業経営の民主化を
図ることにあるという理由によって
是認され得る強制措置であるから、かかる処分が、
本件におけるごとく、法定の要件に違反して行なわれ、
買収すべからざる者より農地を買収したような場合には、
他に特段の事情の認められない以上、
その処分を取り消して該農地を旧所有者に復帰させることが、
公共の福祉の要請に沿う所以である。
のみならず、原判決の適法に確定したところによれば、
本件各農地の売渡を受けた上告人らは、
本件各農地の従前地について政府売渡を原因とする
所有権取得登記を経由しているとはいえ、
該農地の引渡を受けていなかったというのであるから、
前記諸般の事情を勘案すれば、違法を買収処分によって
本件各農地の旧所有者たる前記訴外Fや同人からこれを買い受けた
被上告人Bの蒙った不利益は、違法を売渡処分に基づき
本件各農地の所有者となった上告人らが
右処分の取消によって蒙る不利益に比し
著しく大であるというべきである。
それ故、これらの処分を取り消して
本件各農地を旧所有者またはその買受人に復帰させることが、
公共の福祉の要請に反するものと認めるべき
特段の事情の存しない本件にあっては、
D農業委員会が都知事の確認を得て
本件各農地の買収計画および売渡計画を取り消したことは、
是認することができ、原判決には所論の違法は認められない。
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