政党など政治資金規正法上の政治団体に金員を寄付することと税理士会の目的の範囲
(平成8年3月19日最高裁)
事件番号 平成4(オ)1796
この裁判では、
政党など政治資金規正法上の政治団体に
金員を寄付することと税理士会の目的の範囲について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
民法上の法人は、法令の規定に従い定款又は
寄付行為で定められた目的の範囲内において
権利を有し、義務を負う(民法43条)。
この理は、会社についても基本的に妥当するが、
会社における目的の範囲内の行為とは、
定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、
その目的を遂行する上に直接又は間接に
必要な行為であればすべてこれに包含され、
さらには、会社が政党に政治資金を寄付することも、
客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすために
されたものと認められる限りにおいては、
会社の定款所定の目的の範囲内の行為とするに妨げないとされる。
しかしながら、税理士会は、会社とは
その法的性格を異にする法人であって、
その目的の範囲については会社と
同一に論ずることはできない。
税理士は、国税局の管轄区域ごとに一つの税理士会を
設立すべきことが義務付けられ(法49条1項)、
税理士会は法人とされる(同条3項)。
また、全国の税理士会は、D税連を設立しなければならず、
D税連は法人とされ、各税理士会は、当然にD税連の会員となる
(法49条の14第1、第3、4項)。
税理士会の目的は、会則の定めをまたず、あらかじめ、
法において直接具体的に定められている。
すなわち、法49条2項において、税理士会は、
税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び
税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、
連絡及び監督に関する事務を行うことを
目的とするとされ(法49条の2第2項では
税理士会の目的は会則の必要的記載事項ともされていない。)、
法49条の12第1項においては、税理士会は、
税務行政その他国税若しくは
地方税又は税理士に関する制度について、
権限のある官公署に建議し、又は
その諮問に答申することができるとされている。
また、税理士会は、総会の決議並びに役員の就任及び
退任を大蔵大臣に報告しなければならず(法49条の11)、
大蔵大臣は、税理士会の総会の決議又は役員の行為が
法令又はその税理士会の会則に違反し、その他公益を害するときは、
総会の決議についてはこれを取り消すべきことを命じ、
役員についてはこれを解任すべきことを
命ずることができ(法49条の18)、
税理士会の適正な運営を確保するため必要があるときは、
税理士会から報告を徴し、その行う業務について勧告し、
又は当該職員をして税理士会の業務の状況若しくは
帳簿書類その他の物件を検査させること
ができる(法49条の19第1項)とされている。
さらに、税理士会は、税理士の入会が間接的に
強制されるいわゆる強制加入団体であり、
法に別段の定めがある場合を除く外、税理士であって、かつ、
税理士会に入会している者でなければ
税理士業務を行ってはならないとされている。
税理士会は、以上のように、会社とは
その法的性格を異にする法人であり、
その目的の範囲についても、これを会社のように
広範なものと解するならば、
法の要請する公的な目的の達成を阻害して
法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。
税理士会は、法人として、法及び会則所定の方式による
多数決原理により決定された団体の意思に基づいて活動し、
その構成員である会員は、これに従い協力する義務を負い、
その一つとして会則に従って税理士会の経済的基礎を成す
会費を納入する義務を負う。
しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、
その構成員である会員には、様々の思想・信条及び
主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。
したがって、税理士会が右の方式により決定した意思に
基づいてする活動にも、そのために会員に要請される協力義務にも、
おのずから限界がある。
特に、政党など規正法上の政治団体に対して
金員の寄付をするかどうかは、
選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、
会員各人が市民としての個人的な政治的思想、
見解、判断等に基づいて自主的に
決定すべき事柄であるというべきである。
そうすると、前記のような公的な性格を有する税理士会が、
このような事柄を多数決原理によって団体の意思として決定し、
構成員にその協力を義務付けることはできないというべきであり、
税理士会がそのような活動をすることは、
法の全く予定していないところである。
税理士会が政党など規正法上の政治団体に対して
金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の
制定改廃に関する要求を実現するためであっても、
法49条2項所定の税理士会の目的の範囲外の行為といわざるを得ない。
以上の判断に照らして本件をみると、本件決議は、
被上告人が規正法上の政治団体であるK税政へ金員を寄付するために、
上告人を含む会員から特別会費として5,000円を徴収する旨の決議であり、
被上告人の目的の範囲外の行為を目的と
するものとして無効であると解するほかはない。
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