運用利益の返還利益
(昭和38年12月24日最高裁)
事件番号 昭和35(オ)674
最高裁判所の見解
不当利得における善意の受益者が
利得の原物返還をすべき場合については、
占有物の返還に関する民法189条1項を
類推適用すべきであるとの説があるが、
かかる見解の当否はしばらくおき、
前記事実関係によれば、本件不当利得の返還は
価格返還の場合にあたり、
原物返還の場合には該当しないのみならず、
前記運用利益をもって果実と同視することもできないから、
右運用利益の返還義務の有無に関して、
右法条の適用を論ずる余地はないものといわなければならない。
すなわち、たとえ、被上告人が
善意の不当利得者である間に得た運用利益であっても、
同条の適用によってただちに被上告人に
その収取権を認めるべきものではなく、
この場合右運用利益を返還すべきか否かは、
もっぱら民法703条の適用によって決すべきものである。
そこで、進んで本件におけるような運用利益が、
民法703条により返還されることを要するか
どうかについて考える。
およそ、不当利得された財産について、
受益者の行為が加わることによって得られた収益につき、
その返還義務の有無ないしその範囲については
争いのあるところであるが、この点については、
社会観念上受益者の行為の介入がなくても
不当利得された財産から損失者が
当然取得したであろうと考えられる範囲においては、
損失者の損失があるものと解すべきであり、したがって、
それが現存するかぎり同条にいう
「利益ノ存スル限度」に含まれるものであって、
その返還を要するものと解するのが相当である。
本件の事実関係からすれば、少なくとも上告人が
主張する前記運用利益は、
受益者たる被上告人の行為の介入がなくても
破産会社において社会通念に照し当然取得したであろうと
推認するに難くないから、
被上告人はかりに善意の不当利得者であっても
これが返還義務を免れないものといわなければならない。
してみれば、右運用利益につき、被上告人が
善意の不当利得者であった期間は、
民法189条1項によりこれが返還義務のないことを前提として、
上告人の本訴請求中被上告人の不当利得した
金員合計5,392,924円に対するその各受領の日の翌日より
昭和29年6月21日までの運用利益の
支払を求める部分を棄却した原判決は、
右の点に関する法令の解釈適用を
誤ったものといわなければならないから、
論旨は理由があり、原判決は、右部分につき、
他の上告論旨についての判断をまつまでもなく破棄を免れない。
そして、本件は、右部分につき当審で
裁判をするに熟するものと認められるところ、
右上告人の請求部分は合計1,041,464円(円未満は切り捨てる。)
となることは計算上明らかであるから
(上告人の請求の趣旨中の中間計算にも明白な誤りがあるので訂正)、
被上告人は上告人に対しこれが支払をなすべきものである。
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