金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することの許否

(平成10年6月12日最高裁)

事件番号  平成9(オ)849

 

この裁判では、

金銭債権の数量的一部請求訴訟で敗訴した原告が

残部請求の訴えを提起することの許否について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

一個の金銭債権の数量的一部請求は、当該債権が存在し

その額は一定額を下回らないことを主張して

右額の限度でこれを請求するものであり、

債権の特定の一部を請求するものではないから、

このような請求の当否を判断するためには、

おのずから債権の全部について審理判断することが必要になる。

 

すなわち、裁判所は、当該債権の全部について

当事者の主張する発生、消滅の原因事実の存否を判断し、

債権の一部の消滅が認められるときは債権の総額から

これを控除して口頭弁論終結時における債権の現存額を確定し、

現存額が一部請求の額以上であるときは右請求を認容し、

現存額が請求額に満たないときは現存額の限度で

これを認容し、債権が全く現存しないときは

右請求を棄却するのであって、

当事者双方の主張立証の範囲、程度も、通常は

債権の全部が請求されている場合と変わるところはない。

 

数量的一部請求を全部又は一部棄却する旨の判決は、

このように債権の全部について行われた審理の結果に基づいて、

当該債権が全く現存しないか又は一部として

請求された額に満たない額しか

現存しないとの判断を示すものであって、

言い換えれば、後に残部として請求し得る部分が

存在しないとの判断を示すものにほかならない。

 

したがって、右判決が確定した後に原告が

残部請求の訴えを提起することは、

実質的には前訴で認められなかった請求及び

主張を蒸し返すものであり、前訴の確定判決によって

当該債権の全部について紛争が解決されたとの

被告の合理的期待に反し、被告に

二重の応訴の負担を強いるものというべきである。

 

以上の点に照らすと、金銭債権の数量的一部請求訴訟で

敗訴した原告が残部請求の訴えを提起することは、

特段の事情がない限り、信義則に反して

許されないと解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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