長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求

(昭和62年9月2日最高裁)

事件番号  昭和61(オ)260

 

この裁判では、

長期間の別居と有責配偶者からの離婚請求について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

婚姻の本質は、両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として

真摯な意思をもつて共同生活を営むことにあるから、

夫婦の一方又は双方が既に右の意思を確定的に喪失するとともに、

夫婦としての共同生活の実体を欠くようになり、

その回復の見込みが全くない状態に至つた場合には、

当該婚姻は、もはや社会生活上の実質的基礎を

失っているものというべきであり、

かかる状態においてなお戸籍上だけの婚姻を存続させることは、

かえって不自然であるということができよう。

しかしながら、離婚は社会的・法的秩序としての

婚姻を廃絶するものであるから、

離婚請求は、正義・公平の観念、社会的倫理観に

反するものであってはならないことは当然であって、

この意味で離婚請求は、身分法をも包含する民法全体の指導理念たる

信義誠実の原則に照らしても容認されうるものであることを

要するものといわなければならない。

 

そこで、五号所定の事由による離婚請求がその事由につき

専ら責任のある一方の当事者(以下「有責配偶者」という。)

からされた場合において、当該請求が信義誠実の原則に照らして

許されるものであるかどうかを判断するに当たっては、

有責配偶者の責任の態様・程度を考慮すべきであるが、

相手方配偶者の婚姻継続についての意思及び請求者に対する

感情、離婚を認めた場合における相手方配偶者の

精神的・社会的・経済的状態及び夫婦間の子、

殊に未成熟の子の監護・教育・福祉の状況、別居後に形成された

生活関係、たとえば夫婦の一方又は双方が既に内縁関係を

形成している場合にはその相手方や子らの状況等が斟酌されなければならず、

更には、時の経過とともに、これらの諸事情が

それ自体あるいは相互に影響し合って変容し、また、

これらの諸事情のもつ社会的意味ないしは

社会的評価も変化することを免れないから、

時の経過がこれらの諸事情に与える影響も

考慮されなければならないのである。

そうであってみれば、有責配偶者からされた離婚請求であっても、

夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において

相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場合には、

相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に

極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが

著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、

当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもって

許されないとすることはできないものと解するのが相当である。

 

けだし、右のような場合には、もはや5号所定の事由に係る責任、

相手方配偶者の離婚による精神的・社会的状態等は

殊更に重視されるべきものでなく、

また、相手方配偶者が離婚により被る経済的不利益は、

本来、離婚と同時又は離婚後において

請求することが認められている財産分与又は

慰藉料により解決されるべきものであるからである。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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