名誉毀損と配信サービスの抗弁
(平成14年1月29日最高裁判所)
事件番号 平成10(オ)780
いわゆる「ロス疑惑」ついて、
複数のスポーツ紙が当事者のXについて
共同通信から配信された記事を掲載し、
これに対してXは、スポーツ新聞社を相手取り、
名誉棄損についての損害賠償を請求する訴訟を提起しました。
最高裁判所の見解
最高裁判所は、
「社会の関心と興味をひく
私人の犯罪行為やスキャンダルないし
これに関連する事実を内容とする分野における報道については,
通信社からの配信記事を含めて、報道が加熱する余り、
取材に慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られるのであって、
取材のための人的物的体制が整備され、
一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる
通信社からの配信記事であっても、我が国においては当該配信記事に
摘示された事実の真実性について
高い信頼性が確立しているということはできないのである。
したがって、現時点においては、
新聞社が通信社から配信を受けて
自己の発行する新聞紙に掲載した記事が上記のような報道分野のものであり、
これが他人の名誉を毀損する内容を有するものである場合には、
当該掲載記事が上記のような通信社から配信された記事に
基づくものであるとの一事をもってしては、
記事を掲載した新聞社が当該配信記事に摘示された事実に
確実な資料、根拠があるものと受け止め、
同事実を真実と信じたことに
無理からぬものがあるとまではいえないのであって、
当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて
相当の理由があるとは認められない。」
としました。
配信サービスの抗弁について
また、「配信サービスの抗弁」について最高裁判所は、
「仮にその他の報道分野の記事については、
いわゆる配信サービスの抗弁
すなわち、報道機関が定評ある通信社から
配信された記事を実質的な変更を加えずに掲載した場合に、
その掲載記事が他人の名誉を毀損するものであったとしても,
配信記事の文面上一見して
その内容が真実でないと分かる場合や
掲載紙自身が誤報であることを知っている等の事情がある場合を除き,
当該他人に対する損害賠償義務を負わないとする法理を
採用し得る余地があるとしても、
私人の犯罪行為等に関する報道分野における記事については、
そのような法理を認め得るための、配信記事の信頼性に関する定評という
一つの重要な前提が欠けているといわなければならない。
なお、通信社から配信を受けた記事が
私人の犯罪行為等に関する報道分野におけるものである場合にも、
その事情のいかんによっては、その配信記事に基づく記事を
掲載した新聞社が名誉毀損による
損害賠償義務を免れ得る余地があるとしても、
被上告補助参加人において本件配信記事に摘示された事実を
真実と信ずるについて相当の理由がなく、
かつ、被上告人らの不法行為の
否定につながる他の特段の事情も存しない本件においては、
被上告人らが本件配信記事に基づいて本件各記事を掲載し
上告人の名誉を毀損したことについて、
損害賠償義務を免れることはできない。」
としました。
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