強制調停と公開裁判の原則(適正な裁判手続)
(最高裁昭和35年7月6日)
事件番号 昭和26(ク)109
賃貸されていた家屋について、甲がXに対し、家屋明渡しの訴えを、
Xが甲に対し、占有回収の訴えを提起し、調停が不調に終わり、裁判所は、
戦時民事特別法19条により、借地借家調停に準用される
金銭債務臨時調停法(金調法)7条1項、8条に基づく、
調停にかわる裁判を行いました。
これは非公開・非対審で行われ、確定すれば、
確定判決と同一の効力を持つことになります。
Xは、本件は財産権等に係る訴訟であり、
公開対審の手続きで行われるべきであり、
憲法32条、82条に違反するとして、最高裁に特別抗告をしました。
最高裁判所の見解
憲法は32条において、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定し、
82条において、裁判の対審及び判決は、対審についての同条2項の例外の場合を除き、
公開の法廷でこれを行う旨を定めている。
即ち、憲法は一方において、基本的人権として裁判請求権を認め、
何人も裁判所に対し裁判を請求して司法権による権利、
利益の救済を求めることができることとすると共に、
他方において、純然たる訴訟事件の裁判については、
公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたのであって、
これにより、近代民主社会における人権の保障が全うされるのである。
従って、若し性質上純然たる訴訟事件につき、
当事者の意思いかんに拘わらず終局的に、
事実を確定し当事者の主張する権利義務の存否を確定するような裁判が、
憲法所定の例外の場合を除き、公開の法廷における対審及び
判決によってなされないとするならば、
それは憲法82条に違反すると共に、同32条が基本的人権として
裁判請求権を認めた趣旨をも没却するものといわねばならない。
憲法82条、32条の法意に照らし、
右金銭債務臨時調停法7条の法意を考えてみるに、
同条の調停に代わる裁判は、単に既存の債務関係について、
利息、期限等を形成的に変更することに関するもの、
即ち性質上非訟事件に関するものに限られ、
純然たる訴訟事件につき、事実を確定し当事者の主張する
権利義務の存否を確定する裁判のごときは、
これに包含されていないものと解するを相当とするのであって、
同法八条が、右の裁判は
「非訟事件手続法ニ依リ之ヲ為ス」と規定したのも、
その趣旨にほかならない。
本件は、家屋明渡及び占有回収に関する
純然たる訴訟事件であることは明瞭である。
しかるに、このような本件訴に対し、
東京地方裁判所及び東京高等裁判所は、
いずれも金銭債務臨時調停法7条による調停に代わる裁判を
することを正当としているのであって、右各裁判所の判断は、
同法に違反するものであるばかりでなく、
同時に憲法82条、32条に照らし、違憲である。
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