シャクティパット事件(成田ミイラ化遺体事件)(不作為による殺人)

(平成17年7月4日最高裁)事件番号  平成15(あ)1468

 

Xは「シャクティパット」と称する、

手の平で患者の患部を叩くことで自己治癒力を

高めることができるという特別な能力を持つとして、

信者を集めていました。

 

Xの信者Aは、脳内出血で倒れ病院に入院し、

意識障害のため痰の除去や水分の点滴を要する状態となり、

医師の診断によると、生命に別条はないが、

後遺症が残るかも知れないとのことでした。

 

Aの息子BもまたXの信者で、Xに後遺症を残さない治療を期待し、

Xに治療を依頼しました。

 

Xはこれまでに脳内出血等の重篤な患者に

シャクティパットを施したことはありませんでしたが、

Bの依頼を受けて、医師がAを退院させることは

しばらく無理であるという警告を知りながら、

滞在中のホテルでこの治療を行うとして、

Aを連れてくるようにBにいいました。

 

Bはこれに従い、Aを病院から連れ出し、

Xの滞在するホテルに運び込み、Xがシャクティパットを施しました。

 

XはAの容態を見て、

このままでは死亡する危険があることを認識しながら、

シャクティパットを施すにとどまり、

未必的な故意をもって、痰の除去や水分の点滴等、

Aの生命維持に必要な医療措置を受けさせないまま

Aを約1日放置し、Aは痰による軌道閉塞に基づく窒息により、

死亡しました。

(なお、Xはその後もAは生きていると主張し続け、

Aをはじめとした周囲もこれを信じ、ホテルから

「4ヶ月以上も宿泊している不審な客がいる」

と通報を受けた成田警察署署員が、

ホテルの部屋を捜索して、

ミイラ化した遺体が発見されました。

Xはその後も「司法解剖されるまでAは生きていた」

と主張し続けました。)

 

 

最高裁判所の見解

Xは、自己の責めに帰すべき事由により

患者の生命に具体的な危険を生じさせた上、

患者が運び込まれたホテルにおいて、

Xを信奉する患者の親族から、重篤な患者に対する手当てを

全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。

 

その際、Xは、患者の重篤な状態を認識し、

これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから、

直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を

受けさせる義務を負っていたものというべきである。

 

それにもかかわらず、未必的な殺意をもって、

医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させたXには、

不作為による殺人罪が成立し、殺意のない患者の親族との間では

保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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