地公災基金愛知県支部長事件(瑞鳳小学校事件)
平成8年3月5日最高裁
事件番号 平成4(行ツ)70
市立小学校の教諭Aは、
午前7時40分過ぎころに出勤し、その時から頭痛等、
身体的不調を訴えていましたが、ポートボールの練習指導を行い、
その後、午前中の授業を終え、
午後からは他校でのポートボールの練習試合があり、
同僚の教諭らに体調不良を訴え、
他校の試合の審判を交代してくれるようお願いしましたが、
聞き入れてもらえず、そのまま審判をしていたところ、
ハーフタイムに気分が悪いと言って倒れ、
意識不明となり、入院し、その後、
Aは特発性脳出血と診断され、緊急手術を受け、
一時意識が回復しましたが、その後死亡しました。
Aの遺族らは、地方公務員災害補償法に基づいて、
地公災基金支店長Yに遺族補償と葬儀費用の請求をしたところ、
公務外認定を受け支給が認められず、
Xらはこの不支給処分に対して、
審査請求、再審査請求をしましたが、
いずれも棄却され、この処分の取消しを求めて、
訴えを提起しました。
最高裁判所の見解
記事実関係によれば、特発性脳内出血は、
破裂した微細な血管部分から微量の血液が徐々に浸出するもので、
出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの
時間がかなり掛かるというのである。
そして、記録に現れた関係医師の証言等によれば、
血圧の変動が出血の態様、程度に
影響を及ぼすことがあることがうかがわれ、
また、肉体的又は精神的負荷が血圧変動や血管収縮に
関係し得ることは経験則上明らかであるから、
出血の態様、程度が、血管破裂後に当人が安静にしているか、
肉体的又は精神的負荷が掛かった状態にあるのかによって
影響を受け得るものであることを否定することはできない。
そうすると、出血開始時期が
ポートボールの試合の審判をする以前であったとしても、
右審判による負担やこれによる血圧の一過性の上昇等が
出血の態様、程度に影響を及ぼす可能性も本件証拠関係上は
十分に考えられるところである。
また、午前中の段階で、Dは身体的不調を訴えていたのであるから、
出血開始から血腫が拡大し意識障害に至るまでの時間がかなり掛かるという
特発性脳内出血の性質からして、直ちに診察、手術を受ければ
死亡するに至らなかった可能性ももとより否定し難い。
結局、出血開始後の公務の遂行がその後の症状の
自然的経過を超える増悪の原因となったことにより、
又はその間の治療の機会が奪われたことにより
死亡の原因となった重篤な血腫が形成されたという可能性を、
前記二の3のような説示のみをもって、
否定し去ることは許されず、したがって、
原審が、これらの可能性の有無について審理判断を尽くさないまま、
死亡と公務との間の因果関係の判断に当たって
およそ出血開始後の公務は無関係であるとしたのは、
早計に失するものといわなければならない
出血開始後の公務の遂行が特発性脳内出血の態様、程度に
影響を与えた可能性、死亡に至るほどの血腫の形成を
避けられた可能性等の点について審理判断を尽くすことなく、
前記のような説示をしただけで
出血開始後の公務は無関係であるとして
公務起因性を否定した原審の判断には審理不尽又は
理由不備の違法があり、右違法は原判決の結論に
影響を及ぼすことが明らかである。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、
原判決は破棄を免れない。そこで、原判決を破棄し、
右の点について更に審理を尽くさせるため、
本件を原審に差し戻すこととする
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