旭ダイヤモンド工業事件
昭和61年6月10日最高裁
事件番号 昭和58(行ツ)79
Y社の従業員で組織するA労働組合は、
ストライキ(時限スト)を行ったところ、
Y社の組合員25名の1日分の賃金をカットしました。
A組合はこの賃金カットを、
不利益取扱い及び、支配介入の不当労働行為にあたるとして
甲労働委員会に救済を申し立てました。
甲労働委員会は、本件賃金カットは、
ストライキに対する報復として行われたもので、
不当労働行為に該当するとし、
カットされた賃金と、年5分の割合による加算金の支払いを命じ、
Y社はこの命令の取消しを求めて訴えを提起しました。
なお、この命令が出される前に、組合員25人のうち、
9名が退職し、2名が配転により組合員資格を失っており、
この11名は組合員資格を失う際に、Y社に対し、
賃金カットについて何らの意思表示をしませんでしたが、
A組合は11名の組合員が資格喪失した際に、この賃金相当額を支払い、
Y社から支払われることになった場合の受領権限を
11名から与えられました。
最高裁判所の見解
思うに、労働組合法27条に定める労働委員会の救済命令制度は、
労働者の団結権及び団体行動権の保護を目的とし、
これらの権利を侵害する使用者の一定の行為を
不当労働行為として禁止した同法7条の規定の実効性を
担保するために設けられたものである。
本件賃金カットは、参加人支部の
ストライキに対する報復としてなされたものであって、
前記25名の個人的な雇用関係上の権利利益を侵害するにとどまらず、
右25名に生ずる被害を通じ、
参加人支部の組合員の組合活動意思を萎縮させ
その組合活動一般を抑圧ないし制約し、かつ、
参加人支部の運営について支配介入するという効果を必然的に伴うものであり、
労働組合法7条1号及び3号の不当労働行為に当たるとされる所以である。
したがって、参加人らは、
本件賃金カットの組合活動一般に対する
抑圧的、制約的ないしは支配介入的効果を除去し、
正常な集団的労使関係秩序を回復・確保するため、
本件救済命令の主文第1項、第4項及び第5項が命ずる内容の救済を
受けるべき固有の利益を有するものというべきである。
すなわち、本件救済命令の主文第1項及び第4項は
前記25名に対する本件賃金カットに係る
賃金の支払を命じているが、
これも、本件賃金カットの組合活動一般に対する
侵害的効果を除去するため、本件賃金カットがなかったと同じ
事実上の状態を回復させるという趣旨を有しており、
参加人らは、右の救済を受けることにつき、
右組合員の個人的利益を離れた固有の利益を有しているのである。
そして、参加人らが右の救済を受ける利益は、
本件賃金カットがなかったと同じ事実上の状態が
回復されるまで存続するのであり、
右組合員が本件賃金カットの後に
参加人支部の組合員資格を喪失したとしても、
参加人らの固有の救済利益に消長を来たすものではない。
もっとも、本件のように、労働組合の求める救済内容が
組合員個人の雇用関係上の権利利益の回復という形をとっている場合には、
たとえ労働組合が固有の救済利益を有するとしても、
当該組合員の意思を無視して
実現させることはできないと解するのが相当である。
したがって、当該組合員が、積極的に、
右の権利利益を放棄する旨の意思表示をなし、
又は労働組合の救済命令申立てを通じて右の権利利益の
回復を図る意思のないことを表明したときは、
労働組合は右のような内容の救済を求めることはできないが、
かかる積極的な意思表示のない限りは、
労働組合は当該組合員が組合員資格を喪失したかどうかにかかわらず
救済を求めることができるものというべきである。
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