訴訟詐欺
( 昭和45年3月26日最高裁)
事件番号 昭和42(あ)1235
この裁判では、いわゆる「訴訟詐欺」が
詐欺罪にあたるかどうかについて裁判所が判断を示しました。
最高裁判所の見解
被告人Aは、昭和28年8月29日大阪簡易裁判所において、
裁判上の和解により、金融業B株式会社に対する
金300万円の債務の存在を承認し、その担保として
自己所有の大阪市a区b町c番地所在木造鉄板葺三階建家屋一棟を提供し、
これに抵当権を設定し、その登記並びに代物弁済予約による
所有権移転請求権保全の仮登記を経由したが、その後右債務を完済したので、
同年12月2日右各登記は抹消され、右和解調書はその効力を失った。
そのため、かねて被告人Aに対し債権を有し、
その担保として右不動産に対し後順位の抵当権の設定を受け、
その登記並びに代物弁済予約を登記原因とする
右家屋の所有権移転請求権保全の仮登記を経由していたCが一番抵当権者に昇格し、
昭和30年4月25日その権利の実行として右不動産の所有権移転登記を了したうえ、
同年5月9日右不動産の明渡の強制執行をしたので、
右家屋はCの所有かつ占有するところとなった。
しかるに、被告人両名は他三名と共謀のうえ右家屋の奪回を企て、
すでに右家屋は被告人Aの所有、占有を離れているのに、
依然として同被告人が所有、占有しているかのように装い、
同年一一月一八日ごろ大阪簡易裁判所に対し、
すでに効力を失つている前記Bとの間の和解調書正本につき執行文付与の申請をし、
同裁判所書記官補Dをその旨誤信させて執行文の付与を受けたうえ、
同月二六日ごろ大阪地方裁判所構内において
同裁判所所属執行吏Eに対しても、前示各事実を秘して右執行文を提出し、
右執行吏を右書記官補同様誤信させ、
よってそのころ同執行吏をして右家屋に対する強制執行をなさしめ、
Cの占有下にある同家屋をBの占有に移転させてこれをCから騙取した。
第一審判決は、右事実は詐欺罪に該当するとして、
被告人両名に対し刑法246条1項、60条を適用処断しており、
原判決もまた、これを是認維持しているのである。
ところで、詐欺罪が成立するためには、被欺罔者が錯誤によって
なんらかの財産的処分行為をすることを要するのであり、
被欺罔者と財産上の被害者とが同一人でない場合には、
被欺罔者において被害者のためその財産を処分しうる権能または
地位のあることを要するものと解すべきである。
これを本件についてみると、二番目の強制執行に用いられた
債務名義の執行債務者は、あくまで被告人Aであって、
Cではないから、もとより右債務名義の効力がCに及ぶいわれはなく、
したがって、本件で被欺罔者とされている裁判所書記官補および執行吏は、
なんらCの財産である本件家屋を処分しうる権能も地位もなかったのであり、
また、同人にかわって財産的処分行為をしたわけでもない。
してみると、被告人らの前記行為によって、
被告人らが本件家屋を騙取したものということはできないから、
前記第一審判決の判示事実は罪とならないものといわなければならない。
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