公文書偽造罪
(昭和51年5月6日最高裁)
事件番号 昭和50(あ)1621
この裁判は、市長の代決者である課長を補助し、一定の手続に従って
印鑑証明書の作成にあたっていた補助公務員が、
右手続の要求する申請書の提出と手数料の納付をせずに、
自己の用に供するため印鑑証明書を作成した行為が、
公文書偽造罪となるかどうかについて裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
公文書偽造罪における偽造とは、公文書の作成名義人以外の者が、
権限なしに、その名義を用いて公文書を作成することを意味する。
そして、右の作成権限は、作成名義人の決裁を待たずに自らの判断で
公文書を作成することが一般的に許されている代決者ばかりでなく、
一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとにおいて
公文書を作成することが許されている補助者も、
その内容の正確性を確保することなど、その者への授権を基礎づける
一定の基本的な条件に従う限度において、
これを有しているものということができる。
これを本件についてみると、本庁における印鑑証明書の作成は、
市民課長の専決事項とされていたのであるから、
同人が、作成名義人である秋田市長の代決者として、
印鑑証明書を作成する一般的な権限有していたことはいうまでもないが、
そのほか被告人を含む市民課員も、市民課長の補助者の立場で、
一定の条件のもとにおいて、これを作成する権限を有していたことは、
これに対する市民課長の決裁が印鑑証明書の交付された翌日に行われる
事後決裁であったことから、明らかにこれを認めることができる。
そして、問題となる五通の印鑑証明は、
いずれも内容が正確であって、通常の申請手続を経由すれば、
当然に交付されるものであったのであるから、
被告人がこれを作成したことをもって、
補助者としての作成権限を超えた行為であるということはできない。
確かに、被告人が、申請書を提出せず、
手数料の納付もせずに、これを作成取得した点に、
手続の違反があるが、申請書の提出は、
主として印鑑証明書の内容の正確性を
担保するために要求されているものと解されるので、
その正確性に問題のない本件においてこれを重視するのは相当でなく、
また、手数料の納付も、市の収入を確保するためのものであって、
被告人の作成権限を制約する基本的な条件とみるのは妥当でない。
してみれば、被告人は、作成権限に基づいて、
本件の五通の印鑑証明書を作成したものというべきであるから、
正規の手続によらないで作成した点において権限の濫用があるとしても、
そのことを理由に内部規律違反の責任を問われることはかくべつ、
公文書偽造罪をもって問擬されるべきではないと解するのが相当である。
原判決は、その認定事実を前提とする限り、法令に違反しており、
これを破棄しなければ著しく正義に
反するものといわなければならない。
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