公営住宅の明渡請求と信頼関係の法理の適用

(昭和59年12月13日最高裁)

事件番号  昭和57(オ)1011

 

この裁判では、

公営住宅の明渡請求と信頼関係の法理の適用について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

公営住宅の使用関係には、公の営造物の利用関係として

公法的な一面があることは否定しえないところであって、

入居者の募集は公募の方法によるべきこと(法16条)、

入居者は一定の条件を具備した者でなければならないこと(法17条)、

事業主体の長は入居者を一定の基準に従い

公正な方法で選考すべきこと(法18条)などが定められており、また、

特定の者が公営住宅に入居するためには、

事業主体の長から使用許可を受けなければならない旨

定められているのであるが(条例3条)、他方、

入居者が右使用許可を受けて事業主体と入居者との間に

公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、

前示のような法及び条例による規制はあっても、

事業主体と入居者との間の法律関係は、

基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく、

このことは、法が賃貸(1条、2条)、

家賃(1条、2条、12条、13条、14条)等

私法上の賃貸借関係に通常用いられる用語を使用して

公営住宅の使用関係を律していることからも

明らかであるといわなければならない。

 

したがって、公営住宅の使用関係については、

公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として

民法及び借家法に優先して適用されるが、

法及び条例に特別の定めがない限り、

原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、

その契約関係を規律するについては、

信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。

 

ところで、右法及び条例の規定によれば、事業主体は、

公営住宅の入居者を決定するについては

入居者を選択する自由を有しないものと解されるが、

事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が

設定されたのちにおいては、両者の間には信頼関係を基礎とする

法律関係が存するものというべきであるから、

公営住宅の使用者が法の定める公営住宅の

明渡請求事由に該当する行為をした場合であっても、

賃貸人である事業主体との間の信頼関係を破壊するとは

認め難い特段の事情があるときには、

事業主体の長は、当該使用者に対し、

その住宅の使用関係を取り消し、

その明渡を請求することはできないものと

解するのが相当である。

 

これを本件についてみるに、

原審の適法に確定した事実関係によれば、

上告人は本件無断増築をしたものというべきところ、

本件無断増築は本件住宅の明渡請求事由に該当するものであるが

(法21条4項、22条1項4号、条例15条4号、20条1項5号)、

前説示に照らし、被上告人との間の信頼関係を破壊すると認め難い

特段の事情があるときには、

明渡請求は効力がないものというべきである。

 

したがって、本件に信頼関係理論の適用がないとした原判決には、

所論公営住宅の使用関係に関する法令の解釈適用を誤った

違法があるものといわざるをえない。

 

右事実認定は原判決挙示の証拠関係に照らして肯認することができ、

右事実関係によれば、上告人の増築した本件建物は、構造上、

原状回復が容易であり、かつ、本件住宅の保存にも

適しているとはいえず、また、被上告人が

本件建物の増築を事後に許容したものとも認め難いところであるから、

上告人の家庭に前記上告人の主張するような事情があるからといって、

被上告人との間の信頼関係を破壊するとは認め難い

特段の事情があるということはできない。

 

そうすると、被上告人の本訴明渡請求は、

その余の点について判断するまでもなく、

理由があるものというべきである。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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