工場の誘致施策と信頼の保護
(昭和56年1月27日最高裁)
事件番号 昭和51(オ)1338
この裁判では、
工場の誘致施策と信頼の保護について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
地方公共団体の施策を住民の意思に
基づいて行うべきものとする
いわゆる住民自治の原則は地方公共団体の
組織及び運営に関する基本原則であり、
また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたって
継続すべき施策を決定した場合でも、
右施策が社会情勢の変動等に伴って
変更されることがあることはもとより当然であって、
地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。
しかし、右決定が、単に一定内容の
継続的な施策を定めるにとどまらず、
特定の者に対して右施策に適合する
特定内容の活動をすることを促す個別的、
具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、
その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提として
はじめてこれに投入する資金又は労力に
相応する効果を生じうる性質のものである場合には、
右特定の者は、右施策が右活動の基盤として維持されるものと信頼し、
これを前提として右の活動ないし
その準備活動に入るのが通常である。
このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし
勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に
右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは
認められない場合であっても、右のように
密接な交渉を持つに至つた当事者間の関係を規律すべき
信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたっては
かかる信頼に対して法的保護が
与えられなければならないものというべきである。
すなわち、右施策が変更されることにより、
前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入った者が
その信頼に反して所期の活動を妨げられ、
社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、
地方公共団体において右損害を補償するなどの
代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、
それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、
当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして
違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を
生ぜしめるものといわなければならない。
そして、前記住民自治の原則も、地方公共団体が
住民の意思に基づいて行動する場合にはその行動になんらの
法的責任も伴わないということを意味するものではないから、
地方公共団体の施策決定の基盤をなす政治情勢の変化をもって
ただちに前記のやむをえない客観的事情にあたるものとし、
前記のような相手方の信頼を保護しないことが
許されるものと解すべきではない。
これを本件についてみるのに、前記事実関係に照らせば、
D前村長は、村議会の賛成のもとに
上告人に対し本件工場建設に全面的に
協力することを言明したのみならず、
その後退任までの二年近くの間終始一貫して
本件工場の建設を促し、これに積極的に協力していたものであり、
上告人は、これによつて右工場の建設及び操業開始につき
被上告人の協力を得られるものと信じ、
工場敷地の確保・整備、機械設備の発注等を行ったものであって、
右は被上告人においても予想し、
期待するところであったといわなければならない。
また、本件工場の建設が相当長期にわたる操業を予定して行われ、
少なからぬ資金の投入を伴うものであることは、
その性質上明らかである。
このような状況のもとにおいて、
被上告人の協力拒否により、本件工場の建設が
これに着手したばかりの段階で不可能となったのであるから、
その結果として上告人に多額の積極的損害が生じたとすれば、
右協力拒否がやむをえない客観的事情に基づくものであるか、
又は右損害を解消せしめるような
なんらかの措置が講じられるのでない限り、
右協力拒否は上告人に対する違法な加害行為たることを免れず、
被上告人に対しこれと相当因果関係に立つ損害としての
積極的損害の賠償を求める上告人の請求は
正当として認容すべきものといわなければならない。
被上告人の本件工場建設に対する協力拒否が
やむをえない事情に基づくものであるかどうか、
右協力拒否と本件工場の建設ないし
操業の不能との因果関係の有無、
上告人に生じた損害の程度等の点につき
更に審理を尽くす必要があると認められるので、
本件のうち右請求に関する部分を原審に差し戻すこととする。
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