行政上の不当利得

(昭和49年3月8日最高裁)

事件番号  昭和43(オ)314

 

この裁判では、

行政上の不当利得について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

いったん適法、有効に成立した課税処分が、

後発的な貸倒れにより、

遡って当然に違法、無効となるものではないが、

その貸倒れによつて前記の意味の課税の前提が

失われるに至ったにもかかわらず、なお、

課税庁が右課税処分に基づいて徴収権を行使し、あるいは、

既に徴収した税額をそのまま

保有することができるとすることは、

所得税の本質に反するばかりでなく、

事業所得を構成する債権の貸倒れの場合と

その他の債権の貸倒れの場合との間にいわれなき

救済措置の不均衡をもたらすものというべきであって、

法がかかる結果を是認しているものとは

とうてい解されないのである。

 

そこで、以上の見地に立って考察するに、所得税法は、

具体的な租税債権及びその数額が法規の定める課税要件の充足と

税額計算方法によって自動的に確定するものとはしないで、

課税所得及び税額の決定ないし是正を課税庁の

認定判断にかからしめているのであるから、

かような制度のもとでは、債権の後発的貸倒れの場合にも、

貸倒れの存否及び数額についてまず課税庁が判断し、

その債権確定時の属する年度における実所得が貸倒れにより

回収不能となった額だけ存在しなかったものとして

改めて課税所得及び税額を算定し、それに応じて

先の課税処分の全部又は一部を取り消したうえ、

既に徴税後であればその部分の税額相当額を

納税者に返還するという措置をとることが

最も事理に即した是正の方法というべく

(前記昭和37年法律第44号による

改正後の所得税法10条の6、27条の2参照)、

課税庁としては、貸倒れの事実が判明した以上、

かかる是正措置をとるべきことが法律上期待され、かつ、

要請されているものといわなければならない

 

しかしながら、旧所得税法には、

課税庁が右のごとき是正措置をとらない場合に

納税者にその是正措置を請求する権利を

認めた規定がなかったこと、また、

所得税法が前記のように課税所得と税額の決定を

課税庁の認定判断にかからしめた理由が

専ら徴税の技術性や複雑性にあることにかんがみるときは、

貸倒れの発生とその数額が格別の認定判断を

まつまでもなく客観的に明白で、

課税庁に前記の認定判断権を留保する合理的必要性が

認められないような場合にまで、

課税庁自身による前記の是正措置が講ぜられないかぎり

納税者が先の課税処分に基づく租税の収納を

甘受したければならないとすることは、著しく不当であって、

正義公平の原則にもとるものというべきである。

 

それゆえ、このような場合には、

課税庁による是正措置がなくても、

課税庁又は国は、納税者に対し、

その貸倒れにかかる金額の限度において

もはや当該課税処分の効力を主張することができないものとなり、

したがって、右課税処分に基づいて租税を徴収しえないことは

もちろん、既に徴収したものは、法律上の原因を欠く利得として

これを納税者に返還すべきものと解するのが相当である。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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