情報公開法に基づく行政文書の開示請求に対する不開示決定の取消訴訟(インカメラ審理)

(平成21年1月15日最高裁)

事件番号  平成20(行フ)5

 

この裁判では、

 

インカメラ審理(裁判所だけが文書等を

直接見分する方法により行われる非公開の審理)について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

本件検証の申出等は,立会権の放棄等を前提としたものであって,

実質的にはいわゆるインカメラ審理を意図したものにほかならない。

 

情報公開法は,明文の規定を設けていないが,

インカメラ審理を全く許容しない趣旨ではなく,

行政文書の開示,不開示に関する最終的な判断権者である裁判所が,

その職責を全うするために当該文書を直接見分することが

不可欠であると考えた場合にまで,

インカメラ審理を否定するいわれはない。

 

そして,本件不開示文書のうち情報公開法5条3号又は

5号に該当することを理由に不開示とされた文書については,

上記各号該当性の判断を適正に行うためには,

当該文書の微妙なニュアンスまで酌み取れるように,

細部にまでわたってその内容を正確に把握する必要性が

極めて高いといわなければならず,

裁判所が直接これを見分する必要がある。

 

外務大臣において,本件不開示文書が

民訴法220条4号ロに該当する旨の意見を有していることは明らかであり,また,

本件不開示文書のうち情報公開法5条3号に該当することを理由に

不開示とされた文書については,

民訴法223条4項1号に該当するとの意見を有しているものと解されるが,

本件では,相手方が立会権を放棄する形式で検証を行い,

検証調書の作成においても十分な配慮をすることが可能であって,

このような方法によれば,同号所定の危険性が

顕在化することは考えられないのであるから,

外務大臣の上記意見につき同項所定の

「相当の理由」があると認めるには足りない。

 

平成8年に制定された民訴法には,

証拠調べとしてのインカメラ審理を行い得る旨の明文の規定は設けられなかった。

 

なお,同法には,文書提出義務又は検証物提示義務の存否を

判断するためのインカメラ手続に関する規定が設けられ

(平成13年法律第96号による改正前の民訴法223条3項,232条1項),

その後,特許法,著作権法等にも同様の規定が設けられたが

(特許法105条2項,著作権法114条の3第2項等),

これらの規定は,いずれも証拠申出の採否を判断するための

インカメラ手続を認めたものにすぎず,

証拠調べそのものを非公開で行い得る旨を定めたものではない。

 

そして,平成11年に制定された情報公開法には,

情報公開審査会が不開示とされた文書を直接見分して

調査審議をすることができる旨の規定が設けられたが

(平成13年法律第140号による改正前の情報公開法27条1項),

裁判所がインカメラ審理を行い得る旨の明文の規定は設けられなかった。

 

これは,インカメラ審理については,

裁判の公開の原則との関係をめぐって様々な考え方が存する上,

相手方当事者に吟味,弾劾の機会を与えない証拠により

裁判をする手続を認めることは,

訴訟制度の基本にかかわるところでもあることから,

その採用が見送られたものである。

 

その後,同13年に民訴法が改正され,

公務員がその職務に関し保管し又は所持する文書についても

文書提出義務又は検証物提示義務の存否を判断するための

インカメラ手続を行うことができることとされたが

(民訴法223条6項,232条1項),

上記改正の際にも,情報公開法に

インカメラ審理に関する規定は設けられなかった。

 

以上に述べたことからすると,現行法は,

民訴法の証拠調べ等に関する一般的な規定の下では

インカメラ審理を行うことができないという前提に立った上で,

書証及び検証に係る証拠申出の採否を判断するための

インカメラ手続に限って個別に明文の規定を設けて特にこれを認める一方,

情報公開訴訟において裁判所が不開示事由該当性を判断するために

証拠調べとして行うインカメラ審理については,

あえてこれを採用していないものと解される

 

本件不開示文書について、

裁判所がインカメラ審理を行うことは許されず,

相手方が立会権の放棄等をしたとしても,

抗告人に本件不開示文書の検証を受忍すべき義務を負わせて

その検証を行うことは許されないものというべきであるから,

そのために抗告人に本件不開示文書の提示を

命ずることも許されないと解するのが相当である。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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