源泉徴収による所得税についての納税の告知の法的性質

(昭和45年12月24日最高裁)

事件番号  昭和43(オ)258

 

この裁判では、

源泉徴収による所得税についての納税の告知の法的性質について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

源泉徴収の対象となるべき所得の支払がなされるときは、

支払者は、法令の定めるところに従って所得税を徴収して

国に納付する義務(以下たんに「納税義務」というときは、これを指す)

を負うのであるが、この納税義務は右の所得の支払の時に成立し、

その成立と同時に特別の手続を要しないで

納付すべき税額が確定するものとされている

(国税通則法15条。以下たんに「法何条」というときは、

同法の各条を指す)。

 

すなわち、源泉徴収による所得税については、

申告納税方式による場合の納税者の税額の申告や

これを補正するための税務署長等の処分(更正、決定)、

賦課課税方式による場合の税務署長等の処分(賦課決定)なくして、

その税額が法令の定めるところに従って当然に、

いわば自働的に確定するものとされるのである。

 

そして、右にいわゆる確定とは、

もとより行政上または司法上争うことを許さない趣旨ではないが、

支払われた所得の額と法令の定める税率等から、

支払者の徴収すべき税額が法律上当然に

決定されることをいうのであって、

たとえば、申告納税方式において、

税額が納税者の申告により確定し、

あるいは税務署長の処分により確定するのと、

趣きを異にするのである。

 

そして、以上は、法15条の規定をまつまでもなく、

源泉徴収制度の当然の前提として、

法の予定するところというべきである。

 

もし、右の納税の告知がそれ自体として

税額を確定させる行為(課税処分)であるとすると、

取消判決等によりその効力が否定されないかぎり、支払者において、

納税の告知により確定された税額を徴収して

国に納付すべき義務の存することを争いえず、

また従って受給者において、旧所得税法43条(新法222条)に基づく

支払者の請求等を拒みえないこととなるのである

(支払者において徴収義務を負担するとは、すなわち、

受給者において源泉納税義務を負うことにほかならず、

両者は表裏をなす関係にあり、したがって、

もし納税の告知が課税処分であるとすれば、

そこにおいて確定された税額および

その前提となる徴収義務の存在は、

右処分が取り消されないかぎり、

支払者はもとより受給者においても、

これを否定しえないこととなるのである)が、

現行法上、かかる見地は許容されえない。

 

けだし、源泉徴収による所得税の税額が納税の告知によって

確定されるとするのは、所得の支払の時に所得税を

徴収すべきものとする制度の本旨に反するのみならず、

もし、納税の告知によつて、支払者の納税義務とともに、

受給者の源泉納税義務の範囲(およびその前提となる当該義務の成立)が

確定されるものであるとすれば、納税の告知は支払者および

受給者の双方に対してなされることを要すべきところ、

法2条5号は支払者のみを納税者とし、したがって、

納税の告知は支払者に対してのみなされるのであって、

これが税法の建前とするところであるからである。

 

すなわち、納税の告知は、

納税者たる支払者に対してのみなされるにかかわらず、

これにより支払者の納税義務の範囲(および成立)が

公定力をもって確定されるものとすれば、同時に、

しかも受給者不知の間に、

その源泉納税義務の範囲(および成立)が

公定力をもって確定されることとなるのであるが、

かかる結果は、とうてい法の予定するところとは

解しえないのである。

 

一般に、納税の告知は、法36条所定の場合に

(なお、資産再評価法71条4項参照)、

国税徴収手続の第一段階をなすものとして要求され、

滞納処分の不可欠の前提となるものであり、また、

その性質は、税額の確定した国税債権につき、

納期限を指定して納税義務者等に履行を請求する行為、

すなわち徴収処分であって

(ただし、賦課課税方式による場合において

法32条1項1号に該当するときは、納税の告知が、

同時に賦課決定の通知として、

税額確定の効果をあわせもつ例外の場合にあたる)、

それ自体独立して国税徴収権の

消滅時効の中断事由となるもの(法73条1項)であるが、

源泉徴収による所得税についての納税の告知は、

前記により確定した税額がいくばくであるかについての

税務署長の意見が初めて公にされるものであるから、

支払者がこれと意見を異にするときは、

当該税額による所得税の徴収を防止するため、

異議申立てまたは審査請求(法76条、79条)のほか、

抗告訴訟をもなしうるものと解すべきであり、この場合、

支払者は、納税の告知の前提となる

納税義務の存否または範囲を争って、

納税の告知の違法を主張することができるものと解される

 

けだし、右の納税の告知に先だって、

税額の確定(およびその前提となる納税義務の成立の確認)が、

納税者の申告または税務署長の処分によってなされるわけではなく、

支払者が納税義務の存否または範囲を争ううえで、

障害となるべきものは存しないからである。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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