行政行為の撤回
(昭和63年6月17日最高裁)
事件番号 昭和60(行ツ)124
中絶の時期を逸しながらその施術を求める女性に対し、
勧めて出産をさせ、当該嬰児を子供を欲しがっている
他の婦女が出産したとする虚偽の出生証明書を発行することによって、
戸籍上も右婦女の実子として登載させ、右嬰児をあつせんする、
いわゆる赤ちやんあっせん(「実子あっせん行為」)の違法性と
行政行為の撤回について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
実子あつせん行為は、
医師の作成する出生証明書の信用を損ない、
戸籍制度の秩序を乱し、不実の親子関係の形成により、
子の法的地位を不安定にし、未成年の子を養子とするには
家庭裁判所の許可を得なければならない旨定めた
民法798条の規定の趣旨を潜脱するばかりでなく、
近親婚のおそれ等の弊害をもたらすものであり、また、
将来子にとって親子関係の真否が
問題となる場合についての考慮がされておらず、
子の福祉に対する配慮を欠くものといわなければならない。
したがつて、実子あっせん行為を行うことは、
中絶施術を求める女性にそれを
断念させる目的でなされるものであっても、
法律上許されないのみならず、
医師の職業倫理にも反するものというべきであり、
本件取消処分の直接の理由となった
当該実子あっせん行為についても、
それが緊急避難ないしこれに準ずる行為に当たるとすべき
事情は窺うことができない。
しかも、上告人は、右のような実子あっせん行為に伴う犯罪性、
それによる弊害、その社会的影響を不当に軽視し、
これを反復継続したものであって、その動機、目的が
嬰児等の生命を守ろうとするにあったこと等を考慮しても、
上告人の行った実子あっせん行為に対する
少なからぬ非難は免れないものといわなければならない。
そうすると、被上告人医師会が
昭和51年11月1日付の指定医師の指定をしたのちに、
上告人が法秩序遵守等の面において
指定医師としての適格性を欠くことが明らかとなり、
上告人に対する指定を存続させることが
公益に適合しない状態が生じたというべきところ、
実子あっせん行為のもつ右のような法的問題点、
指定医師の指定の性質等に照らすと、
指定医師の指定の撤回によって上告人の被る不利益を考慮しても、
なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、
法令上その撤回について直接明文の規定がなくとも、
指定医師の指定の権限を付与されている被上告人医師会は、
その権限において上告人に対する右指定を
撤回することができるものというべきである。
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