市場における石油製品価格形成への行政の介入
(昭和59年2月24日最高裁)
事件番号 昭和55(あ)2153
この裁判では、
市場における石油製品価格形成への行政の介入について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、
適法な上告理由にあたらない。
所論にかんがみ、職権をもって判断すると、
物の価格が市場における
自由な競争によって決定されるべきことは、
独禁法の最大の眼目とするところであって、
価格形成に行政がみだりに介入すべきでないことは、
同法の趣旨・目的に照らして明らかなところである。
しかし、通産省設置法3条2号は、鉱産物及び工業品の生産、
流通及び消費の増進、改善及び調整等に関する国の行政事務を
一体的に遂行することを通産省の任務としており、
これを受けて石油業法は、石油製品の第一次エネルギーとしての
重要性等にかんがみ、
「石油の安定的かつ低廉な供給を図り、もって
国民経済の発展と国民生活の向上に資する」
という目的(同法一条)のもとに、
標準価格制度(同法15条)という直接的な方法のほか、
石油精製業及び設備の新設等に関する許可制(同法4条、7条)
さらには通産大臣をして石油供給計画を定めさせること(同法3条)などの
間接的な方法によって、
行政が石油製品価格の形成に介入することを認めている。
そして、流動する事態に対する
円滑・柔軟な行政の対応の必要性にかんがみると、
石油業法に直接の根拠を持たない価格に関する行政指導であっても、
これを必要とする事情がある場合に、
これに対処するため社会通念上相当と認められる方法によって行われ、
「一般消費者の利益を確保するとともに、
国民経済の民主的で健全な発達を促進する」
という独禁法の究極の目的に実質的に抵触しないものである限り、
これを違法とすべき理由はない。
そして、価格に関する事業者間の合意が形式的に
独禁法に違反するようにみえる場合であっても、
それが適法な行政指導に従い、
これに協力して行われたものであるときは、
その違法性が阻却されると解するのが相当である。
そこで、本件についてこれをみると、
原判決の認定したところによれば、
本件における通産省の石油製品価格に関する行政指導は、
昭和45年秋に始まるオペック及びオアペック等の
あい次ぐ大幅な原油値上げによる原油価格の異常な高騰という
緊急事態に対処するため、価格の抑制と民生の安定を目的として
行われたものであるところ、かかる状況下においては、
標準価格制度等石油業法上正式に認知された行政指導によっては、
同法の所期する行政目的を達成することが
困難であったというべきである。
また、本件において通産省が行った行政指導の方法は、
前認定のとおり、昭和46年の値上げの際に設定された
油種別価格の上限を前提として、
値上げを業界のみの判断に委ねることなく
事前に相談に来させてその了承を得させたり、
基本方針を示してこれを値上げ案に反映させたりすることにより
価格の抑制と民生の安定を保とうとしたものであって、
それが決して弱いものであったとはいえないにしても、
基本的には、価格に関する積極的・直接的な介入をできる限り
回避しようとする態度が窺われ、
これが前記のような異常事態に対処するため
社会通念上相当とされる限度を逸脱し
独禁法の究極の目的に実質的に
抵触するものであったとは認められない。
したがって、本件当時における
通産省の行政指導が違法なものであったということはできない。
しかしながら、
すでに詳細に認定・説示したところから明らかなとおり、
本件において、被告人らは、
石油製品の油種別値上げ幅の上限に関する
業界の希望案について合意するに止まらず、
右希望案に対する通産省の了承の得られることを前提として、
一定の期日から、右了承の限度一杯まで
各社いっせいに価格を引き上げる旨の合意をしたものであって、
これが、行政指導に従いこれに協力して
行われたものと評価することのできないことは明らかである。
したがって、本件における被告人らの行為は、
行政指導の存在の故に
その違法性を阻却されるものではないというべきであり、
これと同旨に帰着する原判断は、正当である。
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