申請処理の遅延と内心の静穏な感情を害されない利益(精神的損害の賠償)
(平成3年4月26日最高裁)
事件番号 昭和61(オ)329
この裁判では、
申請処理の遅延と内心の静穏な感情を
害されない利益(精神的損害の賠償)について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
本件の認定申請者は、難病といわれ特殊の病像を持つ
水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から、
一刻も早く解放されたいという切実な願望から
その処分を待つものであろうから、それだけに
処分庁の長期の処分遅延により抱くであろう
不安、焦燥の気持は、いわば内心の静穏な感情を害するものであって、
その程度は決して小さいものではなく、かつ、
それは他の行政認定申請における申請者の地位にある者には
みられないような異種独特の深刻なものであると推認することができる。
人が社会生活において他者から内心の静穏な感情を害され
精神的苦痛を受けることがあっても、
一定の限度では甘受すべきものというべきではあるが、
社会通念上その限度を超えるものについては人格的な利益として
法的に保護すべき場合があり、それに対する侵害があれば、
その侵害の態様、程度いかんによっては、
不法行為が成立する余地があるものと解すべきである。
これを本件についてみるに、既に検討したように、
認定申請者としての、早期の処分により
水俣病にかかっている疑いのままの不安定な地位から
早期に解放されたいという期待、その期待の背後にある
申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益は、
内心の静穏な感情を害されない利益として、
これが不法行為法上の保護の対象になり得るものと
解するのが相当である。
救済法及び補償法の下で、申請者から認定申請を受けた知事は、
それに対する処分を迅速、適正にすべき行政手続上の
作為義務があることはいうまでもなく、
これに対応して、認定申請者には、申請に対して
迅速、適正に処分を受ける手続上の権利を有することになる。
しかしながら、知事の負っている右作為義務は、
申請者の地位にある者の内心の静穏な感情を害されないという
私的利益の保護に直接向けられたものではないから、
右の行政手続上の作為義務が直ちに後者の利益に
対応するものとはいえず、
これについては別途の考察が必要である。
一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、
これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、
早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ
内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは
容易に予測できることであるから、処分庁には、
こうした結果を回避すべき条理上の
作為義務があるということができる。
そして、処分庁が右の意味における
作為義務に違反したといえるためには、
客観的に処分庁がその処分のために手続上必要と考えられる期間内に
処分できなかったことだけでは足りず、
その期間に比してさらに長期間にわたり遅延が続き、かつ、
その間、処分庁として通常期待される努力によって
遅延を解消できたのに、これを回避するための
努力を尽くさなかったことが必要であると解すべきである。
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