存外資産喪失と国に対する補償請求
(昭和43年11月27日最高裁)
事件番号 昭和40(オ)417
この裁判では、
存外資産喪失と国に対する補償請求について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
わが国は、敗戦に伴い、ポツダム宣言を受諾し、
降伏文書に調印し、連合国の占領管理に服することとなり、
わが国の主権は、不可避的に連合軍総司令部の
完全な支配の下におかれざるを得なかった。
わが国は、いわゆる平和条約の締結によって、
この状態から脱却して、その主権の回復を図ることになったのであるが、
同条約は、当時未だ連合軍総司令部の完全な支配下にあって、
わが国の主権が回復されるかどうかが正に
同条約の成否にかかっていたという特殊異例の状態のもとに
締結されたものであり、同条約の内容についても、
日本国政府は、連合国政府と
実質的に対等の立場において自由に折衝し、
連合国政府の要求をむげに拒否することが
できるような立場にはなかったのみならず、
右のような敗戦国の立場上、平和条約の締結にあたって、
やむを得ない場合には憲法の枠外で問題の解決を図ることも
避けがたいところであったのである。
在外資産の賠償への充当ということも、
このような経緯で締結された平和条約の
一条項に基づくものにほかならないのである。
国民のすべてが、多かれ少なかれ、
その生命・身体・財産の犠牲を堪え忍ぶべく
余儀なくされていたのであって、これらの犠牲は、
いずれも、戦争犠牲または戦争損害として、
国民のひとしく受忍しなければならなかったところであり、
右の在外資産の賠償への充当による損害のごときも、
一種の戦争損害として、これに対する補償は、
憲法の全く予想しないところというべきである。
各連合国は、日本国民の在外資産を
「差し押え、留置し、清算し、その他
何らかの方法で処分する権利を有する」旨規定している。
この規定の趣旨とするところは、もともと
外国の主権に基づき当該国の法制の支配下におかれ、
戦争中から戦後にかけて敵産として接収管理されてきた
わが国民の所有に寓する在外資産を右規定に基づいて
当該国が処分し得べきものとするにあって、
さきに述べた平和条約締結の経緯からいって、
わが国が自主的な公権力の行使に基づいて、
日本国民の所有に属する在外資産を戦争賠償に
充当する処分をしたものということはできない。
これを要するに、このような戦争損害は、
他の種々の戦争損害と同様、多かれ少なかれ、
国民のひとしく堪え忍ばなければならないやむを得ない犠牲なのであって、
その補償のごときは、さきに説示したように、
憲法29条3項の全く予想しないところで、
同条項の適用の余地のない問題といわなければならない。
したがって、これら在外資産の喪失による損害に対し、
国が、政策的に何らかの配慮をするかどうかは別問題として、
憲法29条3項を適用してその補償を求める所論主張は、
その前提を欠くに帰するものであって、
所論の憲法29条3項の意義・性質等について判断するまでもなく、
本件上告は排斥を免れない。
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