野村證券株主代表訴訟事件
(平成12年7月7日最高裁)
事件番号 平成8(オ)270
この裁判では、
商法266条1項5号にいう「法令」の意義、
取締役が会社をして会社がその業務を行うに際して
遵守すべき規定に違反させることとなる行為をしたときの
商法266条1項5号の「法令に違反する行為をしたとき」について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
株式会社の取締役は、取締役会の構成員として
会社の業務執行を決定し、あるいは代表取締役として
業務の執行に当たるなどの職務を有するものであって、
商法266条は、その職責の重要性にかんがみ、
取締役が会社に対して負うべき
責任の明確化と厳格化を図るものである。
本規定は、右の趣旨に基づき、
法令に違反する行為をした取締役は
それによって会社の被った損害を
賠償する責めに任じる旨を定めるものであるところ、
取締役を名あて人とし、取締役の受任者としての義務を
一般的に定める商法254条3項(民法644条)、
商法254条の3の規定(以下、併せて「一般規定」という。)及び
これを具体化する形で取締役が
その職務遂行に際して遵守すべき義務を個別的に定める規定が、
本規定にいう「法令」に含まれることは明らかであるが、
さらに、商法その他の法令中の、会社を名あて人とし、
会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定も
これに含まれるものと解するのが相当である。
けだし、会社が法令を遵守すべきことは当然であるところ、
取締役が、会社の業務執行を決定し、
その執行に当たる立場にあるものであることからすれば、
会社をして法令に違反させることのないようにするため、
その職務遂行に際して会社を名あて人とする
右の規定を遵守することもまた、
取締役の会社に対する職務上の義務に
属するというべきだからである。
したがって、取締役が右義務に違反し、
会社をして右の規定に違反させることとなる行為をしたときには、
取締役の右行為が一般規定の定める義務に
違反することになるか否かを問うまでもなく、
本規定にいう法令に違反する行為をしたときに
該当することになるものと解すべきである。
これを本件について見ると、証券会社が、
一部の顧客に対し、有価証券の売買等の取引により
生じた損失を補てんする行為は、
証券業界における正常な商慣習に照らして
不当な利益の供与というべきであるから、
D證券がE放送との取引関係の維持拡大を目的として
同社に対し本件損失補てんを実施したことは、
一般指定の9(不当な利益による顧客誘引)に該当し、
独占禁止法19条に違反するものと解すべきである。
しかしながら、株式会社の取締役が、
法令又は定款に違反する行為をしたとして、
本規定に該当することを理由に損害賠償責任を負うには、
右違反行為につき取締役に故意又は
過失があることを要するものと解される。
原審の適法に確定したところによれば、
(一)被上告人らは、本件損失補てんが
旧証券取引法あるいは本件通達に
違反するものでないかどうかについては
重大な関心を有していたが、
それが一般の投資家に対して取引を
勧誘するような性質のものではなかったことから、
独占禁止法19条に違反するか否かの
問題については思い至らなかった、
(二)被上告人らのみならず、関係当局においても、
証券取引については所管の大蔵省によって
証券取引法及びその関連法令を通じて
規制が行われるべきであるとの基本的理解から、
証券取引に伴う損失補てんが
独占禁止法に違反するかどうかという問題は、
本件損失補てんが行われた後1年半余にわたって
取り上げられることがなかった、
(三)公正取引委員会は、第121回衆議院証券及び
金融問題に関する特別委員会が開催された
平成3年8月31日の時点においても、
なお損失補てんが独占禁止法に違反するとの見解を採っておらず、
公正取引委員会が、本件損失補てんを含む
証券会社の一連の損失補てんが不公正な取引方法に該当し
独占禁止法19条に違反するとして、
同法48条2項に基づく勧告を行ったのは、
同年11月20日であった、というのである。
右事実関係の下においては、被上告人らが、
本件損失補てんを決定し、
実施した平成2年3月の時点において、
その行為が独占禁止法に違反するとの認識を有するに
至らなかったことにはやむを得ない事情があったというべきであって、
右認識を欠いたことにつき過失があったとすることもできないから、
本件損失補てんが独占禁止法19条に違反する行為であることをもって、
被上告人らにつき本規定に基づく
損害賠償責任を肯認することはできない。
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