火災保険契約に附帯する地震保険契約と保険会社の情報提供・説明義務
(平成15年12月9日最高裁)
事件番号 平成14(受)218
この裁判では、
火災保険契約に附帯する地震保険契約と
保険会社の情報提供・説明義務について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
地震保険に加入するか否かについての意思決定は,
生命,身体等の人格的利益に関するものではなく,
財産的利益に関するものであることにかんがみると,
この意思決定に関し,仮に保険会社側からの情報の提供や
説明に何らかの不十分,不適切な点があったとしても,
特段の事情が存しない限り,これをもって
慰謝料請求権の発生を肯認し得る違法行為と
評価することはできないものというべきである。
このような見地に立って,本件をみるに,
前記の事実関係等によれば,次のことが明らかである。
本件各火災保険契約の申込書には,
「地震保険は申し込みません」との記載のある
地震保険不加入意思確認欄が設けられ,
申込者が地震保険に加入しない場合には,
その欄に押印をすることになっている。
申込書にこの欄が設けられていることによって,
火災保険契約の申込みをしようとする者に対し,
①火災保険とは別に地震保険が存在すること,
②両者は別個の保険であって,前者の保険に加入したとしても,
後者の保険に加入したことにはならないこと,
③申込者がこの欄に押印をした場合には,
地震保険に加入しないことになることについての情報が
提供されているものとみるべきであって,
申込者である被上告人らは,申込書に記載されたこれらの情報を基に,
上告人に対し,火災保険及び地震保険に関する
更に詳細な情報(両保険がてん補する範囲,
地震免責条項の内容,地震保険に加入する場合の
その保険料等に関する情報)の提供を求め得る十分な機会があった。
(2)被上告人らは,いずれも,
この欄に自らの意思に基づき押印をしたのであって,
上告人側から提供された上記①~③の情報の内容を理解し,
この欄に押印をすることの意味を理解していたことがうかがわれる。
(3)上告人が,被上告人らに対し,
本件各火災保険契約の締結に当たって,
本件地震保険に関する事項について
意図的にこれを秘匿したなどという事実はない。
これらの諸点に照らすと,本件各火災保険契約の締結に当たり,
上告人側に,被上告人らに対する本件地震保険に関する事項についての
情報提供や説明において,不十分な点があったとしても,
前記特段の事情が存するものとはいえないから,
これをもって慰謝料請求権の発生を肯認し得る
違法行為と評価することはできないものというべきである。
したがって,前記の事実関係の下において,
被上告人らの上告人に対する前記の募取法11条1項,
不法行為,債務不履行及び契約締結上の過失に基づく
慰謝料請求が理由のないことは明らかである。
以上によれば,上告人の被上告人らに対する
慰謝料の支払義務を肯定した原審の判断には,
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨は理由があり,原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。
そして,以上説示したところによれば,
被上告人らの情報提供・説明の義務違反を理由とする
損害賠償請求は理由がなく,
これを棄却した第1審判決は結論において正当であるから,
上記部分に対する被上告人らの控訴を棄却すべきである。
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