欠陥建売住宅を購入した者に対する建築士の責任
(平成15年11月14日最高裁)
事件番号 平成12(受)1711
この裁判では、
欠陥建売住宅を購入した者に対する建築士の責任について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
建築士法3条から3条の3までの規定は,
各規定に定められている建築物の新築等をする場合においては,
当該各規定に定められている一級建築士,二級建築士又は
木造建築士でなければ,その設計又は
工事監理をしてはならない旨を定めており,
上記各規定に違反して建築物の設計又は工事監理をした者には,
罰則が科せられる(同法35条3号)。
法5条の2の規定は,上記規制を前提として,
建築士法の上記各規定に定められている建築物の工事は,
当該各規定に定められている建築士の設計によらなければ,
することができないこと,その工事をする場合には,
建築主は,各規定に定められている建築士である
工事監理者を定めなければならず,
これに違反した工事はすることができないことを定めており,
これらの禁止規定に違反した場合における
当該建築物の工事施工者には,
罰則が科せられるものとされている(法99条1項1号)。
そして,建築士法18条の規定は,建築士は,
その業務を誠実に行い,建築物の質の向上に
努めなければならないこと(同条1項),建築士には,
法令又は条例の定める建築物の基準に適合した設計をし,
設計図書のとおりに工事が実施されるように
工事監理を行うべき旨の法的責務が
あることを定めている(同条2項,3項)。
建築士法及び法の上記各規定の趣旨は,
建築物の新築等をする場合におけるその設計及び
工事監理に係る業務を,その規模,構造等に応じて,
これを適切に行い得る専門的技術を有し,かつ,
法令等の定める建築物の基準に適合した設計をし,
その設計図書のとおりに工事が実施されるように
工事監理を行うべき旨の法的責務が課せられている
一級建築士,二級建築士又は木造建築士に
独占的に行わせることにより,建築される建築物を
建築基準関係規定に適合させ,
その基準を守らせることとしたものであって,
建築物を建築し,又は購入しようとする者に対し,
建築基準関係規定に適合し,安全性等が
確保された建築物を提供することを
主要な目的の一つとするものである。
このように,建築物を建築し,
又は購入しようとする者に対して建築基準関係規定に適合し,
安全性等が確保された建築物を提供すること等のために,
建築士には建築物の設計及び工事監理等の専門家としての
特別の地位が与えられていることにかんがみると,
建築士は,その業務を行うに当たり,
新築等の建築物を購入しようとする者に対する関係において,
建築士法及び法の上記各規定による規制の潜脱を容易にする行為等,
その規制の実効性を失わせるような行為をしてはならない
法的義務があるものというべきであり,
建築士が故意又は過失によりこれに違反する行為をした場合には,
その行為により損害を被った建築物の購入者に対し,
不法行為に基づく賠償責任を負うものと解するのが相当である。
このような見地に立って,本件をみると,
前記の事実関係によれば,上告人の代表者であり,
一級建築士であるDは,前記記載のとおり,
建築確認申請書にDが本件建物の建築工事について
工事監理を行う旨の実体に沿わない記載をしたのであるから,
Dには,自己が工事監理を行わないことが明確になった段階で,
建築基準関係規定に違反した建築工事が行われないようにするため,
本件建物の建築工事が着手されるまでに,
Eに工事監理者の変更の届出をさせる等の適切な措置を執るべき
法的義務があるものというべきである。
ところが,Dは,前記記載のとおり,
何らの適切な措置も執らずに放置し,これにより,
Eが上記各規定による規制を潜脱することを容易にし,
規制の実効性を失わせたものであるから,Dの上記各行為は,
上記法的義務に過失により違反した違法行為と解するのが相当である。
そして,Eから重大な瑕疵のある本件建物を購入した被上告人らは,
Dの上記違法行為により損害を被ったことが明らかである。
したがって,上告人は,被上告人らに対し,
上記損害につき,不法行為に基づく賠償責任を負うというべきである。
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