高速道路でキツネとの衝突を避けようとして自損事故を起こした場合の道路管理の瑕疵
(平成22年3月2日最高裁)
事件番号 平成20(受)1418
この裁判では、
高速道路でキツネとの衝突を避けようとして
自損事故を起こした場合の道路管理の瑕疵について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,
営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,
当該営造物の使用に関連して事故が発生し,
被害が生じた場合において,当該営造物の設置又は
管理に瑕疵があったとみられるかどうかは,
その事故当時における当該営造物の構造,用法,場所的環境,
利用状況等諸般の事情を総合考慮して
具体的個別的に判断すべきである
(最高裁昭和42年(オ)第921号同45年8月20日
第一小法廷判決・民集24巻9号1268頁,
同昭和53年(オ)第76号同年7月4日第三小法廷判決・
民集32巻5号809頁参照)。
前記事実関係によれば,本件道路には有刺鉄線の柵と金網の柵が
設置されているものの,有刺鉄線の柵には
鉄線相互間に20㎝の間隔があり,金網の柵と地面との間には
約10㎝の透き間があったため,このような柵を
通り抜けることができるキツネ等の小動物が
本件道路に侵入することを防止することは
できなかったものということができる。
しかし,キツネ等の小動物が本件道路に侵入したとしても,
走行中の自動車がキツネ等の小動物と接触すること自体により
自動車の運転者等が死傷するような事故が
発生する危険性は高いものではなく,通常は,
自動車の運転者が適切な運転操作を行うことにより
死傷事故を回避することを期待することが
できるものというべきである。
このことは,本件事故以前に,本件区間においては,
道路に侵入したキツネが走行中の自動車に接触して死ぬ事故が
年間数十件も発生していながら,その事故に起因して
自動車の運転者等が死傷するような事故が
発生していたことはうかがわれず,
北海道縦貫自動車道函館名寄線の全体を通じても,
道路に侵入したキツネとの衝突を避けようとしたことに起因する
死亡事故は平成6年に1件あったに
とどまることからも明らかである。
これに対し,本件資料に示されていたような対策が
全国や北海道内の高速道路において
広く採られていたという事情はうかがわれないし,
そのような対策を講ずるためには
多額の費用を要することは明らかであり,加えて,
前記事実関係によれば,本件道路には,
動物注意の標識が設置されていたというのであって,
自動車の運転者に対しては,道路に侵入した動物についての
適切な注意喚起がされていたということができる。
これらの事情を総合すると,
上記のような対策が講じられていなかったからといって,
本件道路が通常有すべき安全性を欠いていたということはできず,
本件道路に設置又は管理の瑕疵があったとみることはできない。
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