不法行為による損害と墓碑建設および仏壇購入の費用
(昭和44年2月28日最高裁)
事件番号 昭和42(オ)1305
この裁判では、
不法行為により死亡した者のため、
祭祀を主宰すべき立場にある遺族が、
墓碑を建設し、仏壇を購入したときは、
そのために支出した費用は、
不法行為により通常生ずべき損害と認めるべきかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
人が死亡した場合にその遺族が墓碑、仏壇等をもって
その霊をまつることは、わが国の習俗において
通常必要とされることであるから、
家族のため祭祀を主宰すべき立場にある者が、
不法行為によつて死亡した家族のため墓碑を建設し、
仏壇を購入したときは、そのために支出した費用は、
不法行為によつて生じた損害でないとはいえない。
死が何人も早晩免れえない運命であり、
死者の霊をまつることが当然に
その遺族の責務とされることではあっても、
不法行為のさいに当該遺族がその費用の支出を余儀なくされることは、
ひとえに不法行為によつて生じた事態であって、
この理は、墓碑建設、仏壇購入の費用と
その他の葬儀費用とにおいて何ら区別する
いわれがないものというべきである
(大審院大正13年(オ)第718号同年12月2日判決、
民集3巻522頁参照)。
したがって、前記の立場にある遺族が、墓碑建設、
仏壇購入のため費用を支出した場合には、
その支出が社会通念上相当と認められる限度において、
不法行為により通常生ずべき損害として、
その賠償を加害者に対して請求することが
できるものと解するのが相当である。
もっとも、その墓碑または仏壇が、当該死者のためばかりでなく、
将来にわたりその家族ないし子孫の霊をもまつるために
使用されるものである場合には、その建設ないし
購入によって他面では利益が将来に残存することとなるのであるから、
そのために支出した費用の全額を不法行為によって生じた損害と
認めることはできない。
しかし、そうだからといって右の支出が不法行為と
相当因果関係にないものというべきではなく、
死者の年令、境遇、家族構成、社会的地位、
職業等諸般の事情を斟酌して、
社会の習俗上その霊をとむらうのに
必要かつ相当と認められる費用の額が確定されるならば、
その限度では損害の発生を否定することはできず、かつ
その確定は必ずしも不可能ではないと解されるのであるから、
すべからく鑑定その他の方法を用いて右の額を確定し、
その範囲で損害賠償の請求を認容すべきである。
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