就労前の年少女子の逸失利益
(昭和62年1月19日最高裁)
事件番号 昭和58(オ)331
この裁判では、
就労前の年少女子の得べかりし利益の喪失による損害賠償額を
いわゆる賃金センサスの女子労働者の
平均給与額を基準として算定する場合に、
賃金センサスの平均給与額に男女間の格差を考慮し、
家事労働分を加算すべきかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
原審が、Dの将来の得べかりし
利益の喪失による損害賠償額を算定するに当たり、
賃金センサス昭和五六年第一巻第一表中の女子労働者、
旧中・新高卒、企業規模計(パートタイム労働者を除いたもの)の表による
平均給与額を基準として収入額を算定したことは、
交通事故により死亡した女子の将来の得べかりし
利益の算定として不合理なものとはいえず
(最高裁昭和54年(オ)第214号同年6月26日
第三小法廷判決・裁判集民事127号129頁、
同昭和56年(オ)第498号同年10月8日第一小法廷判決・
裁判集民事134号39頁参照)、
Dが専業として職業に就いて受けるべき給与額を基準として
将来の得べかりし利益を算定するときには、
Dが将来労働によって取得しうる利益は右の算定によって
評価し尽くされることになると解するのが相当であり、
したがって、これに家事労働分を加算することは、
将来労働によって取得しうる利益を二重に
評価計算することに帰するから相当ではない。
そして、賃金センサスに示されている男女間の
平均賃金の格差は現実の労働市場における
実態を反映していると解されるところ、
女子の将来の得べかりし利益を算定するに当たって、
予測困難な右格差の解消ないし
縮少という事態が確実に生じるものとして
現時点において損害賠償額に反映させ、
これを不法行為者に負担させることは、
損害賠償額の算定方法として必ずしも
合理的なものであるとはいえない。
したがつて、Dの得べかりし利益を算定するにつき、
Dの受けるべき給与額に更に家事労働分を
加算すべきではないとした原審の認定判断は、
正当として是認することができる。
また、所論は、原審のした慰藉料額の算定をも非難するが、
原審の適法に確定した事実関係のもとにおいて
原審の算定した慰藉料の額が
不当なものであるということはできない。
原判決に所論の違法はなく、
右の判断は所論引用の判例に抵触するものでもない。
論旨は、違憲の主張を含め、独自の見解に基づいて、
原判決の損害賠償額算定の違法をいうものにすぎず、
採用することができない
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