自動車損害賠償保障法16条1項と国民健康保険法64条1項

(平成10年9月10日最高裁)

事件番号  平成6(オ)651

 

この裁判では、

 国民健康保険の保険者からの療養の給付に先立って

自動車損害賠償保障法16条1項の規定に基づく

損害賠償額の支払がされた場合に右保険者が

国民健康保険法64条1項の規定に基づき

代位取得する損害賠償請求権の額について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

国民健康保険の保険者が

被保険者に対し療養の給付を行ったときは、

国民健康保険法64条1項により、保険者はその給付の価額の限度

(ただし、被保険者の一部負担金相当額を除く。)において

被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得し、

右損害賠償請求権は、その給付がされた都度、

当然に保険者に移転するものである

(最高裁昭和41年(オ)第425号同42年10月31日

第3小法廷判決・裁判集民事88号869頁参照)。

 

しかしながら、同法64条1項は、

療養の給付の時に、被保険者の第三者に対する

損害賠償請求権が存在していることを前提とするものであり、

療養の給付に先立ち、これと同一の事由について

被保険者が第三者から損害賠償を受けた場合には、

これにより右損害賠償請求権は

その価額の限度で消滅することになるから、

保険者は、その残存する額を限度として

これを代位取得するものと解される。

 

国民健康保険の保険者が交通事故の被害者である被保険者に対して

行った療養の給付と、自賠責保険の保険会社が右被害者に対して

自賠法16条1項の規定に基づいてした損害賠償額の支払とは、

共に一個の交通事故により生じた身体傷害に対するものであって、

原因事実及び被侵害利益を共通にするものであるところ、

右被保険者が、療養の給付を受けるのに先立って、

保険会社から損害賠償額の支払を受けた場合には、

右損害賠償額の支払は、右事故による身体傷害から生じた

損害賠償請求権全体を対象としており、

療養に関する損害をも包含するものであって、

保険会社が損害賠償額の支払に当たって算定した

損害の内訳は支払額を算出するために示した

便宜上の計算根拠にすぎないから、

右被保険者の第三者に対する損害賠償請求権は、

その内訳のいかんにかかわらず、支払に応じて消滅し、

保険者は、療養の給付の時に残存する額を限度として、

右損害賠償請求権を代位取得するものと解すべきである。

 

また、前記仮渡金は、自賠法17条1項の規定に基づいて

支払われたものであるところ、仮渡金が、

同法16条1項の規定に基づき支払われる損害賠償額の

一部先渡しであることは同法17条1項の解釈上明らかであるから、

仮渡金の支払によって全体の損害賠償請求権が

その支払額だけ消滅するものといわなければならない。

 

被上告人は、療養の給付の時に存在する

損害賠償請求権の額を限度とし、

療養の給付をした都度、被上告人の負担額

(ただし、過失相殺による減額をした後の額)に相当する額の

損害賠償請求権を代位取得するにすぎないというべきである。

 

そして、右事実関係の下において

被上告人が代位取得する損害賠償請求権の額を算出するには、

Dの上告人に対する損害賠償請求権の総額を明らかにした上で、

右総額から、療養の給付の価額のうちの

被上告人の負担額(ただし、過失相殺による減額をした後の額)と

保険会社からDに支払われた損害賠償額とを、

時間の経過に従って順次控除してゆき、

被上告人の行った療養の給付の都度、

Dの上告人に対する損害賠償請求権が

なお残存しているかどうかを明らかにする必要があるところ、

原審の認定したところからはこの点が明確ではなく、

被上告人が代位取得する損害賠償請求権の額を

算出することはできないものといわざるを得ない。

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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