任意捜査において許容される有形力の行使の限度

(昭和51年3月16日最高裁)

事件番号  昭和50(あ)146

 

この裁判では、

任意捜査において許容される有形力の行使の限度について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

捜査において強制手段を用いることは、

法律の根拠規定がある場合に限り許容されるものである。

 

しかしながら、ここにいう強制手段とは、

有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、

個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて

強制的に捜査目的を実現する行為など、

特別の根拠規定がなければ許容することが

相当でない手段を意味するものであって、

右の程度に至らない有形力の行使は、

任意捜査においても許容される場合があるといわなければならない。

 

ただ、強制手段にあたらない有形力の行使であっても、

何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるのであるから、

状況のいかんを問わず常に許容されるものと解するのは相当でなく、

必要性、緊急性などをも考慮したうえ、

具体的状況のもとで相当と認められる限度において

許容されるものと解すべきである。

 

これを本件についてみると、A巡査の前記行為は、

呼気検査に応じるよう被告人を

説得するために行われたものであり、

その程度もさほど強いものではないというのであるから、

これをもって性質上当然に逮捕その他の

強制手段にあたるものと判断することはできない。

 

また、右の行為は、酒酔い運転の罪の疑いが濃厚な被告人を

その同意を得て警察署に任意同行して、

被告人の父を呼び呼気検査に応じるよう説得をつづけるうちに、

被告人の母が警察署に来ればこれに応じる旨を述べたので

その連絡を被告人の父に依頼して母の来署を待つていたところ、

被告人が急に退室しようとしたため、

さらに説得のためにとられた抑制の措置であって、

その程度もさほど強いものではないというのであるから、

これをもって捜査活動として許容される範囲を超えた

不相当な行為ということはできず、

公務の適法性を否定することができない。

 

したがって、原判決が、右の行為を含めて

A巡査の公務の適法性を肯定し、被告人につき

公務執行妨害罪の成立を認めたのは、正当というべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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