尿の提出及び押収手続の違法性と尿についての鑑定書の証拠能力
(昭和61年4月25日最高裁)
事件番号 昭和60(あ)427
この裁判では、
尿の提出及び押収手続の違法性と尿についての
鑑定書の証拠能力について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
本件においては、被告人宅への立ち入り、
同所からの任意同行及び警察署への留め置きの
一連の手続と採尿手続は、
被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という
同一目的に向けられたものであるうえ、
採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を
直接利用してなされていることにかんがみると、
右採尿手続の適法違法については、
採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも
十分考慮してこれを判断するのが相当である。
そして、そのような判断の結果、
採尿手続が違法であると認められる場合でも、
それをもって直ちに採取された尿の鑑定書の証拠能力が
否定されると解すべきではなく、
その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり、
右鑑定書を証拠として許容することが、
将来における違法な捜査の抑制の見地からして
相当でないと認められるときに、
右鑑定書の証拠能力が否定されるというべきである
(最高裁昭和51年(あ)第865号同53年9月7日
第一小法廷判決・刑集32巻6号1672頁参照)。
以上の見地から本件をみると、
採尿手続前に行われた前記一連の手続には、
被告人宅の寝室まで承諾なく立ち入っていること、
被告人宅からの任意同行に際して明確な承諾を得ていないこと、
被告人の退去の申し出に応ぜず警察署に留め置いたことなど、
任意捜査の域を逸脱した違法な点が存することを考慮すると、
これに引き続いて行われた本件採尿手続も
違法性を帯びるものと評価せざるを得ない。
しかし、被告人宅への立ち入りに際し
警察官は当初から無断で入る意図はなく、
玄関先で声をかけるなど被告人の承諾を求める行為に出ていること、
任意同行に際して警察官により何ら
有形力は行使されておらず、
途中で警察官と気付いた後も被告人は
異議を述べることなく同行に応じていること、
警察官において被告人の受験の申し出に
応答しなかったことはあるものの、
それ以上に警察署に留まることを
強要するような言動はしていないこと、さらに、
採尿手続自体は、何らの強制も加えられることなく、
被告人の自由な意思での応諾に基づき
行われていることなどの事情が
認められるのであって、これらの点に徴すると、
本件採尿手続の帯有する違法の程度は、
いまだ重大であるとはいえず、
本件尿の鑑定書を被告人の罪証に供することが、
違法捜査抑制の見地から相当でないとは認められないから、
本件尿の鑑定書の証拠能力は否定されるべきではない。
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