売買契約の市長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又濫用あたるか
(平成28年6月27日最高裁)
事件番号 平成26(行ヒ)321
この裁判は、
市が土地開発公社の取得した土地をその簿価に基づき
正常価格の約1.35倍の価格で買い取る売買契約を締結した
市長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又は
これを濫用するものとして違法となるとはいえないとされた事例です。
最高裁判所の見解
(1)ア 前記事実関係等によれば,市は,本件公社に対し,
本件事業の用に供する土地の先行取得を依頼し(本件依頼),
本件土地を先行取得させるとともに,本件隣接地取得契約により
これに隣接する本件隣接地を取得していたが,その後,
図書館の建設事業を優先することになり,検討の結果,
本件土地及び既に取得していた本件隣接地に
図書館を建設することとしたため,
これらを一体のものとして上記事業の用に供する目的で,
本件売買契約により本件土地を買い取ったものである。
そして,市と本件公社との間で締結された
本件売買契約における本件土地の
取得価格6586万5900円についてみると,
そもそも本件隣接地取得契約における
本件隣接地の1㎡当たりの価格8万4700円が,
前記2(2)ウのとおり市において同イの17筆の土地の分譲価格や
本件隣接地の近隣2か所の県基準地の標準価格等を
参考にして定められたものであり,
相応の合理性を有するものであったところ,
本件土地の1㎡当たりの価格7万2400円は,
これを下回るものであったというのである。
しかも,本件鑑定によれば,本件土地及び本件隣接地における
平成16年12月7日から同19年8月14日までの間の
地価変動率がマイナス10.7%とされており,
本件隣接地の1㎡当たりの価格を上記地価変動率で
本件売買契約の締結当時の価格に引き直すと約7万5600円となるところ,
本件土地の1㎡当たりの価格は,
これをも下回るものであったということができる。
そうすると,本件土地の取得価格は,上記に述べたところに照らし,
特に高額であるとはいえない。
また,本件土地の取得価格は,本件土地の正常価格の約1.35倍であるが,
そもそも当該正常価格は,本件土地を取得する目的や
本件売買契約の締結に至る経緯等を
考慮していないものであることが明らかである上,
本件土地の取得価格と正常価格との較差(約1.35倍)自体についても,
本件隣接地の取得価格と正常価格との較差(約1.27倍)と比較して,
顕著な相違があるとはいえない。
イ もっとも,前市長は,本件公社との間で
本件土地の売買契約を締結するに当たり,その取得価格につき,
前記2(3)イのとおり本件公社が所有する保留地の簿価に基づいて
算定された1㎡当たりの金額に
本件土地の面積を乗じて決定したものであり,
上記取得価格を決定するに当たり,不動産鑑定を実施したり,
近隣の土地の分譲価格等と比較したりしていない点において,
取引の実例価格等を必ずしも十分に考慮していない面が
あることは否定できない。
しかし,上記取得価格を算定する際の基礎とされた上記簿価は,
本件公社による本件土地を含む上記保留地の用地費(取得価格)に
支払利息等(上記保留地の取得又は管理に要した経費や
借入金に係る利子等)を加えたものであり,
一定の算定根拠を有するものであったことに加え,
その1㎡当たりの金額が,前記アで述べたとおり
相応の合理性を有する本件隣接地取得契約における
本件隣接地の1㎡当たりの価格や,これを本件売買契約の
締結当時のものに引き直した価格を下回るものであったことからすると,
前市長が上記簿価に基づいて本件土地の取得価格を決定したことが
明らかに合理性を欠くものということはできない。
(2) 以上によれば,本件公社との間で本件売買契約を締結した
前市長の判断は,その裁量権の範囲を逸脱し又は
これを濫用するものとして違法となるということはできない。
そうすると,前市長は,本件売買契約の締結及び
これに基づく支出命令につき,
市に対して損害賠償責任を負わないというべきである。
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