民事再生法92条1項によりすることができる相殺に該当するか
(平成28年7月8日最高裁)
事件番号 平成26(受)865
この裁判では、
再生債務者に対して債務を負担する者が
自らと完全親会社を同じくする
他の株式会社が有する再生債権を自働債権としてする相殺は,
民事再生法92条1項によりすることが
できる相殺に該当するかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
相殺は,互いに同種の債権を有する当事者間において,
相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し,
もって両者の債権関係を円滑かつ公平に
処理することを目的とする制度であって,
相殺権を行使する債権者の立場からすれば,
債務者の資力が不十分な場合においても,
自己の債権について確実かつ十分な返済を受けたと
同様の利益を得ることができる点において,
受働債権につきあたかも担保権を有するにも
似た機能を営むものである。
上記のような相殺の担保的機能に対する再生債権者の期待を保護することは,
通常,再生債権についての再生債権者間の公平,平等な扱いを
基本原則とする再生手続の趣旨に反するものではないことから,
民事再生法92条は,原則として,再生手続開始時において
再生債務者に対して債務を負担する再生債権者による相殺を認め,
再生債権者が再生計画の定めるところによらずに
一般の再生債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし,
この点において,相殺権を別除権と
同様に取り扱うこととしたものと解される
(最高裁昭和39年(オ)第155号同45年6月24日
大法廷判決・民集24巻6号587頁,
最高裁平成21年(受)第1567号同24年5月28日
第二小法廷判決・民集66巻7号3123頁参照)。
このように,民事再生法92条は,
再生債権者が再生計画の定めるところによらずに
相殺をすることができる場合を定めているところ,
同条1項は「再生債務者に対して債務を負担する」ことを要件とし,
民法505条1項本文に規定する2人が
互いに債務を負担するとの相殺の要件を,
再生債権者がする相殺においても採用しているものと解される。
そして,再生債務者に対して
債務を負担する者が他人の有する再生債権をもって
相殺することができるものとすることは,
互いに債務を負担する関係にない者の間における
相殺を許すものにほかならず,
民事再生法92条1項の上記文言に反し,
再生債権者間の公平,平等な扱いという
上記の基本原則を没却するものというべきであり,相当ではない。
このことは,完全親会社を同じくする複数の株式会社が
それぞれ再生債務者に対して債権を有し,
又は債務を負担するときには,
これらの当事者間において当該債権及び債務をもって
相殺することができる旨の合意が
あらかじめされていた場合であっても,異なるものではない。
したがって,再生債務者に対して債務を負担する者が,
当該債務に係る債権を受働債権とし,
自らと完全親会社を同じくする他の株式会社が有する
再生債権を自働債権としてする相殺は,
これをすることができる旨の合意が
あらかじめされていた場合であっても,
民事再生法92条1項によりすることができる
相殺に該当しないものと解するのが相当である。
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