共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び定期貯金債権は遺産分割の対象となるか
(平成28年12月19日最高裁)
事件番号 平成27(許)11
この裁判では、
共同相続された普通預金債権,通常貯金債権及び
定期貯金債権は遺産分割の対象となるかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
(1) 相続人が数人ある場合,各共同相続人は,
相続開始の時から被相続人の権利義務を承継するが,
相続開始とともに共同相続人の共有に
属することとなる相続財産については,
相続分に応じた共有関係の解消をする手続を経ることとなる
(民法896条,898条,899条)。
そして,この場合の共有が基本的には
同法249条以下に規定する共有と性質を
異にするものでないとはいえ
(最高裁昭和28年(オ)第163号同30年5月31日
第三小法廷判決・民集9巻6号793頁参照),
この共有関係を協議によらずに解消するには,
通常の共有物分割訴訟ではなく,遺産全体の価値を総合的に把握し,
各共同相続人の事情を考慮して行うべく
特別に設けられた裁判手続である遺産分割審判
(同法906条,907条2項)によるべきものとされており
(最高裁昭和47年(オ)第121号同50年11月7日
第二小法廷判決・民集29巻10号1525頁参照),
また,その手続において基準となる相続分は,
特別受益等を考慮して定められる具体的相続分である
(同法903条から904条の2まで)。
このように,遺産分割の仕組みは,
被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の
実質的公平を図ることを旨とするものであることから,
一般的には,遺産分割においては被相続人の財産を
できる限り幅広く対象とすることが望ましく,また,
遺産分割手続を行う実務上の観点からは,現金のように,
評価についての不確定要素が少なく,
具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての
調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する
要請も広く存在することがうかがわれる。
ところで,具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての
調整に資する財産であるという点においては,
本件で問題とされている預貯金が
現金に近いものとして想起される。
預貯金契約は,消費寄託の性質を有するものであるが,
預貯金契約に基づいて金融機関の処理すべき事務には,
預貯金の返還だけでなく,振込入金の受入れ,
各種料金の自動支払,定期預金の自動継続処理等,
委任事務ないし準委任事務の性質を有するものも多く含まれている
(最高裁平成19年(受)第1919号同21年1月22日
第一小法廷判決・民集63巻1号228頁参照)。
そして,これを前提として,普通預金口座等が賃金や
各種年金給付等の受領のために一般的に利用されるほか,
公共料金やクレジットカード等の支払のための口座振替が
広く利用され,定期預金等についても総合口座取引において
当座貸越の担保とされるなど,預貯金は決済手段としての
性格を強めてきている。
また,一般的な預貯金については,預金保険等によって
一定額の元本及びこれに対応する利息の支払が担保されている上
(預金保険法第3章第3節等),その払戻手続は簡易であって,
金融機関が預金者に対して
預貯金口座の取引経過を開示すべき義務を負うこと
(前掲最高裁平成21年1月22日第一小法廷判決参照)などから
預貯金債権の存否及びその額が争われる事態は多くなく,
預貯金債権を細分化してもこれにより
その価値が低下することはないと考えられる。
このようなことから,預貯金は,預金者においても,
確実かつ簡易に換価することができるという点で
現金との差をそれほど意識させない
財産であると受け止められているといえる。
共同相続の場合において,一般の可分債権が
相続開始と同時に当然に相続分に応じて
分割されるという理解を前提としながら,
遺産分割手続の当事者の同意を得て
預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が
実務上広く行われてきているが,
これも,以上のような事情を背景とするものであると解される。
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