刑訴法382条の解釈適用
(平成26年3月10日最高裁)
事件番号 平成24(あ)744
この裁判は、
覚せい剤の密輸入事件について,共犯者供述の信用性を否定して
無罪とした第1審判決には事実誤認があるとした原判決に,
刑訴法382条の解釈適用の誤りはないとされた事例です。
最高裁判所の見解
刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が
論理則,経験則等に照らして不合理であることをいう
(最高裁平成23年(あ)第757号同24年2月13日
第一小法廷判決・刑集66巻4号482頁)ところ,
所論は,事実誤認を理由に第1審判決を破棄した原判決は,
事実誤認につき論理則,経験則等に照らして
不合理であることを具体的に示しておらず,
その事実認定も誤っているという。
(2) 第1審判決が,A供述と通話記録告人以外の
第三者の存在が強くうかがわれるとした根拠は,
①本件密輸入には日本の暴力団関係者が関わっていた可能性が
相当程度考えられ,Aも暴力団関係者と無縁であったとは
到底いえないこと,
②Dが,Aと本件密輸入に関する通話をした際に,
別の男の声も聞こえた旨供述しているところ,
その前後の通話状況に照らし,
Dが聞いた男の声は,被告人の声ではなかったとみるべきであること,
③Cも,Aと本件密輸入に関する通話をした際に,
Aが誰か男と話している感じがあった旨供述していること,
④通話記録に照らすと,Aが,その交際相手の女性やトルコで
Dの案内役を務めたとされる外国人を介して,
被告人以外の者から本件密輸入に関して
指示を受けていた具体的可能性も否定できないことの4点である。
しかし,いずれも,指摘する事情のみから直ちに
本件密輸入全般にわたってAに指示を与えていた
被告人以外の第三者の存在をうかがわせる内容とは
いい難い上,本件では,前記のとおり,
被告人が指示者であるとするA供述が
通話記録によってよく裏付けられているほか,
被告人が,平成20年8月以降,
本件密輸入のときを含めて5回にわたり,
Aが手配した運搬役が覚せい剤を関空へと
持ち帰ったとされる際に自らも関空に赴くなど,
被告人の本件密輸入への関与をうかがわせる事情もある。
このような証拠関係の下で被告人以外の第三者の存在が
強くうかがわれるとした第1審判決は,
前記のとおりA供述と通話記録との整合性に関する判断を誤るとともに,
被告人の関与をうかがわせる上記事情をも適切に評価しなかった結果,
抽象的な可能性のみをもってA供述の信用性を否定したものであって,
その判断は明らかに不合理で,
この点も経験則に照らし不合理な判断といわざるを得ない。
(4) そうすると,第1審判決が,最終的にA供述の信用性を否定し,
被告人とAらとの共謀を否定する結論を導いた点も,
経験則に照らして不合理な判断といわざるを得ない。
原判決は,これと同旨の説示をするとともに,
A供述は通話記録とよく符合していて信用性が高く,また,
A供述以外から被告人の本件密輸入への関与を
基礎付ける事情も認められると指摘して,
これらを総合評価すれば,被告人と
Aらとの共謀を優に認定することができると判示しているところ,
この判断も合理的なものであって,是認できる。
(5) 以上によれば,原判決は,
第1審判決の事実認定が経験則に照らして
不合理であることを具体的に示して
事実誤認があると判断したものといえ,
刑訴法382条の解釈適用の誤りはないし,事実誤認もない。
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