労働者災害補償保険法11条1項に規定する者による訴訟承継
(平成29年4月6日最高裁)
事件番号 平成27(行ヒ)349
じん肺管理区分が管理1に該当する旨の決定を受けた
常時粉じん作業に従事する労働者等が管理4に該当するとして
提起した当該決定の取消訴訟の係属中に死亡した場合における
労働者災害補償保険法11条1項に規定する者による
訴訟承継の成否について裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
ア 都道府県労働局長のじん肺管理区分の決定は,
粉じん作業に従事する労働者及び粉じん作業に従事する
労働者であった者を対象とし,
じん肺健康診断の結果を基礎として,
じん肺に関し相当の学識経験を有する医師である
地方じん肺診査医の審査等に基づき,
じん肺の所見の有無及びその進展の程度を確認し,
じん肺に関する健康管理その他必要な措置を適切に講じ得るよう,
じん肺の所見がないと認められる者を管理1に,
当該所見があると認められる者をその進展の程度に応じて
管理2から管理4までに区分するもの(じん肺法4条2項)である。
そして,同法23条は,管理4と決定された者については,
療養を要するものとしているところ,これは,
労災保険給付の対象となる業務上の疾病として,
「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症」が定められ,
療養補償給付等の対象とされていることに対応する規定であり,
都道府県労働局長が上記のようなじん肺健康診断の結果を基礎とする
専門医の判断に基づいて管理4と決定した者については,
上記の業務上の疾病に当たるものとして労災保険給付が
円滑かつ簡便に支給されるようにしたものと解される。
そうすると,同条は,管理4に該当するじん肺にかかった労働者等が,
その旨のじん肺管理区分決定を受けた場合に
上記の業務上の疾病に当たるか否かについての
実質的審査を再度経ることなく当該労災保険給付の支給を
受けられることとしたものと解するのが相当である。
イ 他方,本件通達によれば,じん肺に係る労災保険給付に
関する事務を行うに当たっては,
管理4と決定された者に係るじん肺を業務上の疾病として
取り扱うものとする一方,管理4以外の者からじん肺に係る
労災保険給付の請求があった場合は,原則として,
随時申請を行うべきことを指導し,
当該申請によるじん肺管理区分の決定を待って,
その結論に応じて所定の事務を行うこととされている。
これは,上記のような
じん肺法23条及び労災保険法等の規定を踏まえて,
じん肺に係る労災保険給付に関する事務において,
管理4に該当する旨の決定がある場合に
上記アの業務上の疾病に当たるとの判断が
行われることとしているものということができ,
管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等が
労災保険給付の請求をした場合には,
当該業務上の疾病に当たるとは認められないとして
当該労災保険給付の不支給処分を受けることが
確実であるということができる。
ウ 以上によれば,都道府県労働局長から所定の手続を経て
管理1に該当する旨の決定を受けた労働者等は,
これを不服として,当該決定の取消しを求める
法律上の利益を有するところ,
労災保険法11条1項所定の遺族は,
死亡した労働者等が有していたじん肺に係る
労災保険給付の請求権を承継的に取得するものと理解することができること
(同項及び同条2項)を考慮すると,このような法律上の利益は,
当該労働者等が死亡したとしても,
当該労働者等のじん肺に係る未支給の
労災保険給付を請求することができる
上記遺族が存する限り,失われるものではないと解すべきである。
このように解することは,本件のように,
管理1に該当する旨の決定を受けた当該労働者等が
その取消訴訟を提起した後に死亡した場合に,
上記遺族に訴訟承継を認めないときは,
当該遺族は当該労働者等のじん肺に係る労災保険給付を請求したとしても,
管理1に該当する旨の決定が存する以上,
当該労災保険給付の不支給処分を受けることが確実であり,
改めてこれに対する取消訴訟を
提起することを余儀なくされることに照らしても,
合理性を有するということができる。
エ したがって,管理1に該当する旨の決定を受けた
労働者等が当該決定の取消しを求める訴訟の係属中に死亡した場合には,
当該訴訟は,当該労働者等の死亡によって当然に終了するものではなく,
当該労働者等のじん肺に係る未支給の
労災保険給付を請求することができる
労災保険法11条1項所定の遺族において
これを承継すべきものと解するのが相当である。
そして,当該決定に係る審査請求を棄却する旨の
裁決の取消しを求める訴訟についても同様に解される
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