租税特別措置法66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業
(平成29年10月24日最高裁)
事件番号 平成28(行ヒ)224
この裁判では、
内国法人に係る特定外国子会社等の行う地域統括業務が
租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの)66条の6第3項にいう
株式の保有に係る事業に含まれるかについて
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
(1) 措置法66条の6第1項は,内国法人が,
法人の所得等に対する租税の負担がないか又は
極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に
子会社を設立して経済活動を行い,
当該子会社に所得を留保することにより,
我が国における租税の負担を回避しようとする事例が
生ずるようになったことから,
このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として,
一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し,
その課税対象留保金額を内国法人の所得の
計算上益金の額に算入することとしたものである
(最高裁平成17年(行ヒ)第89号同19年9月28日
第二小法廷判決・民集61巻6号2486頁参照)。
しかし,特定外国子会社等であっても,
独立企業としての実体を備え,その所在する国又は
地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで
上記の取扱いを及ぼすとすれば,我が国の民間企業の海外における
正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから,
同条4項は,事業基準等の適用除外要件が全て満たされる場合には
同条1項の規定を適用しないこととしている。
(2)ア 措置法66条の6第4項は,同条3項にいう
株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき
事業基準を満たさないとしているところ,株式を保有する者は,
利益配当請求権等の自益権や株主総会の議決権等の
共益権を行使することができるほか,保有に係る株式の運用として
売買差益等を得ることが可能であり,それゆえ,
他の会社に係る議決権の過半数の株式を保有する
特定外国子会社等は,上記の株主権の行使を通じて,
当該会社の経営を支配し,これを管理することができる。
しかし,他の会社の株式を保有する特定外国子会社等が,
当該会社を統括し管理するための活動として
事業方針の策定や業務執行の管理,調整等に係る業務を行う場合,
このような業務は,通常,当該会社の業務の合理化,
効率化等を通じてその収益性の向上を図ることを直接の目的として,
その内容も上記のとおり幅広い範囲に及び,
これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を
統括していくものであるから,その結果として
当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても,
株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは
異なる独自の目的,内容,機能等を有するものというべきであって,
上記の業務が株式の保有に係る事業に包含され
その一部を構成すると解するのは相当ではない。
そして,A各事業年度において,Aの行っていた地域統括業務は,
地域企画,調達,財務,材料技術,人事,情報システム及び
物流改善という多岐にわたる業務から成り,
豪亜地域における地域統括会社として,
集中生産・相互補完体制を強化し,各拠点の事業運営の効率化や
コスト低減を図ることを目的とするものということができるのであって,
個々の業務につき対価を得て行われていたことも併せ考慮すると,
上記の地域統括業務が株主権の行使や株式の運用に
関連する業務等であるということはできない。
イ また,措置法66条の6第4項が株式の保有を
主たる事業とする特定外国子会社等につき
事業基準を満たさないとした趣旨は,
株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても
十分に行い得るものであり,タックス・ヘイブンに所在して
行うことについて税負担の軽減以外に積極的な
経済合理性を見いだし難いことにある。
この点,Aの行っていた地域統括業務は,
地域経済圏の存在を踏まえて域内グループ会社の業務の合理化,
効率化を目的とするものであって,当該地域において
事業活動をする積極的な経済合理性を有することが否定できないから,
これが株式の保有に係る事業に含まれると解することは
上記規定の趣旨とも整合しない。
ウ なお,平成22年法律第6号による租税特別措置法の改正によって,
株式等の保有を主たる事業とする特定外国子会社等のうち,
当該特定外国子会社等が他の外国法人の事業活動の総合的な管理及び
調整を通じてその収益性の向上に資する業務を行う場合における
当該他の外国法人として政令で定めるものの株式等の保有を
行うものとして政令で定めるもの(平成22年政令第58号による
改正後の租税特別措置法施行令39条の17第4項に定める
統括業務を行う同条3項各号に掲げる要件を満たす統括会社)を
株式等の保有を主たる事業とするものから除外することとされた
(前記改正後の租税特別措置法66条の6第3項)が,
これによって事業基準を満たすこととなる統括会社は,
もともと株式等の保有を主たる事業とするものであって(同項柱書き),
それ以外の統括会社はその対象となるものではないから,
これらの改正経過を根拠に上記の統括業務が株式の保有に係る
事業に包含される関係にあるものということはできず,
Aの行っていた地域統括業務が株式の保有に係る
事業に含まれるということはできない。
エ 以上によれば,A各事業年度において,
Aの行っていた地域統括業務は,措置法66条の6第3項にいう
株式の保有に係る事業に含まれるものということはできない。
(3)ア 次に,措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は,
特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ
客観的な内容から判定することが相当であり,
特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは,
当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって
得られた収入金額又は所得金額,事業活動に要する
使用人の数,事務所,店舗,工場その他の固定施設の状況等を
総合的に勘案して判定するのが相当である。
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