鳴門市競艇従事員共済会への補助金違法支出損害賠償等請求事件

(平成28年7月15日最高裁)

平成26(行ヒ)472

 

この裁判は、

市の経営する競艇事業の臨時従事員等により組織される共済会から

臨時従事員に対して支給される離職せん別金に充てるため,

市が共済会に対してした補助金の交付が,

その後の条例の制定により遡って適法なものとなるとした

原審の判断に違法があるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

本件補助金の交付については,給与条例主義を潜脱するものとして

地方自治法232条の2の定める公益上の必要性に係る判断に

裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるか否かが問題となるところ,

前記事実関係等によれば,離職せん別金は,

離職又は死亡による登録名簿からの抹消を支給原因とし,

その支給額は離職時の基本賃金に在籍年数及び

これを基準とする支給率を乗じるなどして算出され,

実際の支給額も相当高額に及んでおり,

課税実務上も退職手当等に該当するものとして

取り扱われていたものである。

 

そして,離職せん別金は,共済会がその規約に基づく

事業の一つとして臨時従事員に支給していたものであるが,

市が共済会に対し離職せん別金に要する経費を補助の対象として

交付していた離職せん別金補助金の額は,

離職せん別金に係る計算式と連動した計算式により

算出された金額の範囲内とされ,本件における

離職せん別金の原資に占める本件補助金の割合は

約91.5%に及んでいたのである。

 

これらの事実に照らせば,本件補助金は,実質的には,

市が共済会を経由して臨時従事員に対し

退職手当を支給するために共済会に対して

交付したものというべきである。

 

地方自治法204条の2は,普通地方公共団体は

法律又はこれに基づく条例に基づかずには

いかなる給与その他の給付も職員に支給することができない旨を定め,

地方公営企業法38条4項は,企業職員の給与の種類及び

基準を条例で定めるべきものとしているところ,

本件補助金の交付当時,臨時従事員に対して離職せん別金又は

退職手当を支給する旨を定めた条例の規定はなく,

賃金規程においても臨時従事員の

賃金の種類に退職手当は含まれていなかった。

 

また,臨時従事員は,採用通知書により指定された

個々の就業日ごとに日々雇用されてその身分を有する者にすぎず,

給与条例の定める退職手当の支給要件(前記2(3))を

満たすものであったということもできない。

 

そうすると,臨時従事員に対する離職せん別金に充てるためにされた

本件補助金の交付は,地方自治法204条の2及び

地方公営企業法38条4項の定める

給与条例主義を潜脱するものといわざるを得ない。

 

以上によれば,地方自治法232条の2の定める

公益上の必要性があるとしてされた本件補助金の交付は,

裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであって,

同条に違反する違法なものというべきである。

 

(2) 本件条例は,在籍期間が1年を超える

臨時従事員が退職した場合に退職手当を

支給する旨を定め(3条,12条),

「この条例の施行の際現に企業局長が定めた規程に基づき

臨時従事員に支給された給与については,

この条例の規定に基づき支給された給与とみなす。」

との経過規定(附則2項)を定めている。

 

しかし,共済会の規約に基づき臨時従事員に

支給された離職せん別金は,企業局長が定めた規程に基づいて

臨時従事員に支給された給与に当たるものでないことは明らかであるから,

上記経過規定が定められたとしても,その文言に照らし,

本件条例の制定により臨時従事員に対する

離職せん別金の支給につき遡って

条例上の根拠が与えられたということはできない。

 

このことは,本件補助金を原資としてされた離職せん別金の支給が

実質的な退職手当の支給というべきものであり,また,

本件条例の制定の趣旨が離職せん別金の支給につき

条例上の根拠を明確にする点にあったとしても,左右されるものではない。

 

以上によれば,本件条例の制定により臨時従事員に対する

離職せん別金の支給につき遡って条例の定めがあったことになるとして,

本件補助金の交付が適法なものとなるとした原審の判断には,

本件条例の解釈適用を誤った違法があるというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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