リラックス法学部 > 初学者の部屋 > 失踪宣告(普通失踪・特別失踪)について解説
権利能力という言葉の意味を
覚えていらっしゃいますでしょうか?
権利能力とは
「権利義務の主体となれる地位または資格」
です。
人間であれば生まれた瞬間に誰でも備わり、
無くなるのは死亡した時です。
(胎児に権利能力は原則としてありませんが、
例外が三つあります。
①相続
②遺贈
③不法行為による損害賠償の請求権
の3つですが、
それぞれ別の回で詳しく説明します)
死亡した時以外に権利能力が
失われることはありません。
しかし、これだと困る場合があります。
行方不明の人物がいて、
何年も生死が確認されない場合、
その家族はその人物の財産を
どうしてよいのかわかりませんね。
そこで民法は、条件を満たした場合に、
その者を死亡としたものとみなす制度を作りました。
それが「失踪宣告」というものです。
失踪宣告には、
普通失踪と特別失踪があります。
普通失踪は7年間生死不明の不在者の
失踪を宣告(死亡したものとみなす)するものです。
利害関係人が、
家庭裁判所に請求することで失踪が宣告されます。
7年間行方不明が続けば
自動的に死んだことになるわけではありませんので
注意しましょう。
「利害関係人」とは、
とりあえず家族と考えていただければ結構です。
7年間の期間満了時に死亡したものとみなされます。
特別失踪は戦地に臨んだ者、
沈没した船舶の中にいた者その他死亡の原因と
なるべき危難に遭遇した者の生死が、
それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又は
その他の危難が去った後一年間明らかでない場合、
利害関係人が家庭裁判所に請求することで
失踪が宣告されます。
こちらは、「危難が去った時」に
死亡したものとみなされますので
注意してください。条文で確認してみましょう。
(失踪の宣告)
第三十条
不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、
利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2 戦地に臨んだ者、
沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因と
なるべき危難に遭遇した者の生死が、
それぞれ、戦争が止んだ後、
船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後
一年間明らかでないときも、前項と同様とする。
(失踪の宣告の効力)
第三十一条 前条第一項の規定により
失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、
同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者は
その危難が去った時に、死亡したものとみなす。
失踪の宣告がされた後に、実は生きていたという場合や、
失踪宣告で死亡したとみなされた時ではない時に
死亡したと証明されたときは、
本人または利害関係人が
家庭裁判所に取消しを請求することができ、
このとき家庭裁判所は失踪を
取り消さなければいけません。
(違う時期に死亡した事が証明されても
家庭裁判所に請求して失踪宣告を取り消さなければ、
失踪宣告がされた時に死亡したものとして
扱われ続けますので注意しましょう。)
生きていた場合はできて
当然という感覚があると思いますが、
違う時期に死亡した時にも
取消せるのは何故でしょうか?
実はどういう順番で死亡したかによって、
誰が相続人になるかということが
変わったりするのです。
詳しくは相続のところで説明しますが、
そういうことがあると認識しておいてください。
また、「同時死亡の推定」
というものがあります。
数人の者が何らかの原因で死亡し、
死亡の前後が不明な場合は
同時に死亡したものとする規定です。
こちらも誰が相続人になるかという点を
考慮した規定です。
失踪の宣告により財産を得たものは、
その取消しによって権利を失いますが、
「現に利益を受けている限度においてのみ」
返還する義務を負います。
「現に利益を受けている」
という表現は制限行為能力者が取消しを
した場合もそうでしたね。
どういう場合が
「現に利益を受けている限度」
となるかですが、
手元に財産(お金、モノ)が残っているならば、
それを返還するということですが、
例えば生活費(食費や家賃)に使ったり、
借金を返済したぶんは
現在も利益が残っているという扱いで、
そのぶんも合わせて返還しなければなりません。
そのお金があったから、
今の自分があるということで、
お金が自分の血肉となって
まだ残っているということです。
では、「現に利益が残っていない」とは
どういう使い方かといいますと、
浪費した場合です。
わかりやすいのは
ギャンブルでスッた場合です。
ですので、まとめますと、
失踪宣告で死亡したとみなされた者の財産を相続し、
そのお金を生活費に使ったぶんは、
本人が生きていたら返さなければいけませんが、
ギャンブルでスッたぶんは
本人に返さなくてとよいということです。
一般人の感覚したら
納得いかない話だとは思いますが、
民法ではこのように扱うことになっています。
それでは条文で確認しましょう。
(失踪の宣告の取消し)
第三十二条
失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に
死亡したことの証明があったときは、
家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、
失踪の宣告を取り消さなければならない。
この場合において、その取消しは、
失踪の宣告後その取消し前に
善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2 失踪の宣告によって財産を得た者は、
その取消しによって権利を失う。
ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、
その財産を返還する義務を負う。
第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、
そのうちの一人が他の者の死亡後になお
生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、
同時に死亡したものと推定する。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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