不作為による放火

(昭和33年9月9日最高裁)

事件番号  昭和31(あ)3929

 

Xは、股火鉢で深夜に残業をしていましたが、

酒を飲んで気分が悪くなり、大量の炭火をそのままにして、

工務室で仮眠をとり、仮眠から起きると、

火鉢の火が机などに燃え移っており、

狼狽したXは、そのまま放置すれば事務所を

焼燬するに至ることを認識しながら、自己の失策の発覚をおそれて、

何らの措置をすることなくその場から逃げ去りました。

 

その後、火勢は拡大し、営業所の建物が全焼し、

近隣に燃え移り、住宅、倉庫等を6棟を全焼させ、

1棟を半焼させるに至りました。

 

この裁判のポイント

被告人側が、大審院判例の趣旨からすると、

不作為による放火罪が成立するための要件として

「既発の火力を利用する意思」が必要だと主張しましたが、

本判決は「認容の意思」で足りるとし、

引用の大審院判例の趣旨も本判決の趣旨と

相容れないものではないと判示しました。

 

最高裁判所の見解

第一審判決認定事実によれば、Xはふと右仮睡から醒め右事務室に入り来って

右炭火からボール箱入原符に引火し木机に延焼しているのを発見したところ、

その際Xが自ら消火に当りあるいは判示宿直員3名を呼び起こし

その協力をえるなら火勢、消火設備の関係から

容易に消火しうる状態であったのに、そのまま放置すれば

火勢は拡大して判示営業所建物に延焼しこれを焼燬するに

至るべきことを認識しながら自己の失策の発覚のおそれなどのため、

あるいは右建物が焼燬すべきことを認容しつつそのまま同営業所玄関より

表に出で何等建物への延焼防止処置をなさず同所を立ち去った結果、

右発燃火は燃え拡がって右宿直員らの現在する

営業所建物1棟ほか現住家屋6棟等を焼燬した、というのである。

 

すなわち、Xは自己の過失により右原符、木机等の物件が

焼燬されつつあるのを現場において目撃しながら、

その既発の火力により右建物が焼燬せられるべきことを認容する意思をもって

あえてXの義務である必要かつ容易な消火措置を

とらない不作為により建物についての放火行為をなし、

よってこれを焼燬したものであるということができる

 

されば結局これと同趣旨により右所為を刑法108条の放火罪に

当たるとした原判示は相当であり、

引用の大審院判例の趣旨も本判決の趣旨と相容れないものではなく、

原判決には右判例に違反するところはない。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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