学校法人専修大学事件(解雇制限期間と打切補償)

(平成27年6月8日最高裁)

事件番号  平成25(受)2430

 

学校法人Yの職員Xは、

業務上の疾病(頸肩腕症候群)により欠勤を繰り返すようになり、

Yは、当初のものは有給休暇として処理し、

後に私傷病による欠勤、私傷病による休職として処理しました。

 

その後、Xはいったん退職し、A労基署長は、

労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付の

支給の決定をし、YはXの退職を取り消しました。

 

Xの欠勤日数が3年を経過し、Yは、

Xを2年間の業務災害休職に付しました。

 

そして、2年が経過し、YはXの職場復帰は不可能であると判断し、

打切補償として平均賃金の1,200日分相当額の支給をした上で

解雇しました。

 

 

Yは、この解雇が有効であるとして、

労働契約上の権利を有する地位の不存在確認を求めて

本訴を提起し、Xは、自らが労基法81条所定の

「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、

解雇は労基法19条に反して無効であるとして、

労働契約上の権利を有する地位の確認および損害賠償を求めて、

反訴を提起しました。

(その後、Yは本訴を取り下げました。)

 

一審は、Xの請求をほぼ認容し、

原審はYの控訴を棄却しました。

 

最高裁判所の見解

労災保険法は,業務上の疾病などの業務災害に対し

迅速かつ公正な保護をするための

労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の創設等を目的として

制定され,業務上の疾病などに対する使用者の

補償義務を定める労働基準法と同日に公布,施行されている。

 

業務災害に対する補償及び労災保険制度については,

労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方,

労災保険法12条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており,

これらの関係につき,同条2項が,療養補償給付を始めとする

同条1項1号から5号までに定める各保険給付は

労働基準法75条から77条まで,79条及び80条において

使用者が災害補償を行うべきものとされている事由が

生じた場合に行われるものである旨を規定し,

同法84条1項が,労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合には

使用者はその給付の範囲内において災害補償の

義務を免れる旨を規定するなどしている。

 

また,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める

上記各保険給付の内容は,労働基準法75条から77条まで,

79条及び80条の各規定に定められた使用者による

災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっている。

 

上記のような労災保険法の制定の目的並びに

業務災害に対する補償に係る労働基準法及び

労災保険法の規定の内容等に鑑みると,

業務災害に関する労災保険制度は,労働基準法により使用者が負う

災害補償義務の存在を前提として,その補償負担の緩和を図りつつ被災した

労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため,使用者による災害補償に代わる

保険給付を行う制度であるということができ,

このような労災保険法に基づく保険給付の実質は,

使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が

保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である。

 

労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が,

療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,

労働基準法75条による療養補償を受ける

労働者が上記の状況にある場合と同様に,

使用者は,当該労働者につき,

同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより,

解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を

受けることができるものと解するのが相当である。

 

全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

 

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