原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法
(平成4年10月29日最高裁)
事件番号 昭和60(行ツ)133
この裁判では、
原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
原子炉施設の安全性に関する審査は、
当該原子炉施設そのものの工学的安全性、
平常運転時における従業員、周辺住民及び周辺環境への
放射線の影響、事故時における周辺地域への影響等を、
原子炉設置予定地の地形、地質、気象等の自然的条件、
人口分布等の社会的条件及び当該原子炉設置者の
右技術的能力との関連において、
多角的、総合的見地から検討するものであり、
しかも、右審査の対象には、
将来の予測に係る事項も含まれているのであって、
右審査においては、原子力工学はもとより、
多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく
総合的判断が必要とされるものであることが明らかである。
そして、規制法24条2項が、内閣総理大臣は、
原子炉設置の許可をする場合においては、
同条1項3号(技術的能力に係る部分に限る。)及び
4号所定の基準の適用について、あらかじめ原子力委員会の意見を聴き、
これを尊重してしなければならないと定めているのは、
右のような原子炉施設の安全性に関する審査の特質を考慮し、
右各号所定の基準の適合性については、
各専門分野の学識経験者等を擁する原子力委員会の
科学的、専門技術的知見に基づく意見を尊重して行う
内閣総理大臣の合理的な判断にゆだねる趣旨と解するのが相当である。
右の原子炉施設の安全性に関する判断の適否が争われる
原子炉設置許可処分の取消訴訟における
裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは
原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にして
された被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から
行われるべきであって、現在の科学技術水準に照らし、
右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、
あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした
原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び
判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、
被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、
被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、
右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。
右処分が前記のような性質を有することにかんがみると、
被告行政庁がした右判断に不合理な点があることの主張、立証責任は、
本来、原告が負うべきものと解されるが、
当該原子炉施設の安全審査に関する資料をすべて
被告行政庁の側が保持していることなどの点を考慮すると、
被告行政庁の側において、まず、
その依拠した前記の具体的審査基準並びに
調査審議及び判断の過程等、被告行政庁の判断に
不合理な点のないことを相当の根拠、資料に基づき
主張、立証する必要があり、
被告行政庁が右主張、立証を尽くさない場合には、
被告行政庁がした右判断に不合理な点があることが
事実上推認されるものというべきである。
原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会が
本件原子炉施設の安全性について行った調査審議及び
判断に不合理な点があるとはいえず、
これを基にしてされた本件原子炉設置許可処分を適法であるとした
原審の判断は、正当として是認することができる。
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