収用補償金増額の訴え
(平成9年1月28日最高裁)
事件番号 平成5(行ツ)11
この裁判では、
土地収用法133条所定の訴訟における補償額についての
審理判断の方法について
裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
土地収用法における損失の補償は、
特定の公益上必要な事業のために土地が収用される場合、
その収用によって当該土地の所有者等が被る
特別な犠牲の回復を図ることを目的とするものであるから、
完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて
被収用者の有する財産価値を等しくさせるような補償をすべきであり、
金銭をもって補償する場合には、被収用者が近傍において
被収用地と同等の代替地等を取得することを可能にするに足りる
金額の補償を要するものと解される。
同法による補償金の額は、
「相当な価格」(同法71条参照)等の
不確定概念をもって定められているものではあるが、
右の観点から、通常人の経験則及び社会通念に従って、
客観的に認定され得るものであり、
かつ、認定すべきものであって、
補償の範囲及びその額(以下、これらを「補償額」という。)の決定につき
収用委員会に裁量権が認められるものと解することはできない。
したがって、同法133条所定の損失補償に関する訴訟において、
裁判所は、収用委員会の補償に関する認定判断に
裁量権の逸脱濫用があるかどうかを審理判断するものではなく、
証拠に基づき裁決時点における正当な補償額を客観的に認定し、
裁決に定められた補償額が右認定額と異なるときは、
裁決に定められた補償額を違法とし、
正当な補償額を確定すべきものと解するのが相当である。
土地収用法133条所定の損失補償に関する訴訟は、
裁決のうち損失補償に関する部分又は
補償裁決に対する不服を実質的な内容とし、
その適否を争うものであるが、究極的には、
起業者と被収用者との間において、裁決時における
同法所定の正当な補償額を確定し、
これをめぐる紛争を終局的に解決し、
正当な補償の実現を図ることを目的とするものということができる。
右訴訟において、権利取得裁決において定められた補償額が
裁決の当時を基準としてみても
過少であったと判断される場合には、
判決によって、裁決に定める権利取得の時期までに
支払われるべきであった正当な補償額が確定されるものである。
しかも、被収用者である土地所有者等は右の時期において
収用土地に関する権利を失い、収用土地の利用ができなくなる
反面、起業者は右の時期に権利を取得して
これを利用することができるようになっているのであるから、
被収用者は、正当な補償額と裁決に
定められていた補償額との差額のみならず、
右差額に対する権利取得の時期からその支払済みに至るまで
民法所定の年五分の法定利率に相当する
金員を請求することができるものと解するのが相当である。
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