生命保険契約約款の保険料不払失効条項と消費者契約法10条

(平成24年3月16日最高裁)

事件番号  平成22(受)332

 

この裁判では、保険料の払込みがされない場合に

履行の催告なしに生命保険契約が失効する旨を定める約款の条項の,

消費者契約法10条にいう

「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して

消費者の利益を一方的に害するもの」の該当性について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

本件約款においては,第2回目以後の保険料は払込期月の間に

払い込むべき旨が明確に定められているのであって,

第2回目以後の保険料の弁済期限は

各払込期月の末日であることが明らかである。

 

本件約款に定められた猶予期間は,

保険料支払債務の不履行を理由とする保険契約の失効を

当該払込期月の翌月の末日まで

猶予する趣旨のものというべきである。

 

そうすると,本件失効条項は,

保険料が払込期月内に払い込まれず,かつ,

その後1か月の猶予期間の間にも

保険料支払債務の不履行が解消されない場合に,

保険契約が失効する旨を定めたものと解される

 

本件失効条項は,上記のように,

保険料の払込みがされない場合に,その回数にかかわらず,

履行の催告(民法541条)なしに

保険契約が失効する旨を定めるものであるから,

この点において,任意規定の適用による場合に比し,

消費者である保険契約者の権利を制限するものであるというべきである。

 

そこで,本件失効条項が信義則に反して

消費者の利益を一方的に害するものに当たるか否かについて検討する。

 

ア 民法541条の定める履行の催告は,債務者に,

債務不履行があったことを気付かせ,

契約が解除される前に履行の機会を与える機能を有するものである。

 

本件各保険契約のように,保険事故が発生した場合に

保険給付が受けられる契約にあっては,

保険料の不払によって反対給付が停止されるようなこともないため,

保険契約者が保険料支払債務の不履行があったことに気付かない事態が

生ずる可能性が高く,このことを考慮すれば,

上記のような機能を有する履行の催告なしに

保険契約が失効する旨を定める本件失効条項によって

保険契約者が受ける不利益は,決して小さなものとはいえない。

 

イ しかしながら,前記事実関係によれば,

本件各保険契約においては,保険料は

払込期月内に払い込むべきものとされ,

それが遅滞しても直ちに保険契約が失効するものではなく,

この債務不履行の状態が一定期間内に解消されない場合に

初めて失効する旨が明確に定められている上,

上記一定期間は,民法541条により求められる催告期間よりも

長い1か月とされているのである。加えて,

払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,

自動的に上告人が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて

保険契約を有効に存続させる旨の

本件自動貸付条項が定められていて,

長期間にわたり保険料が払い込まれてきた保険契約が

1回の保険料の不払により

簡単に失効しないようにされているなど,

保険契約者が保険料の不払をした場合にも,

その権利保護を図るために

一定の配慮がされているものといえる。

 

ウ さらに,上告人は,本件失効条項は,

保険料支払債務の不履行があった場合には

契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う

実務上の運用を前提とするものである旨を主張するところ,仮に,

上告人において,本件各保険契約の締結当時,

保険料支払債務の不履行があった場合に契約失効前に

保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整え,

そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば,通常,

保険契約者は保険料支払債務の不履行があったことに

気付くことができると考えられる。

 

多数の保険契約者を対象とするという

保険契約の特質をも踏まえると,

本件約款において,保険契約者が保険料の不払をした場合にも,

その権利保護を図るために一定の配慮をした

上記イのような定めが置かれていることに加え,

上告人において上記のような運用を確実にした上で

本件約款を適用していることが認められるのであれば,

本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を

一方的に害するものに当たらないものと解される

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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