事実の錯誤と法律の錯誤
昭和26年8月17日最高裁
事件番号 昭和25(れ)1242
養鶏場と養兎場を営んでいたXは、
野犬にかみ殺されてしまう被害に悩まされていました。
Xは、対策として罠をしかけたところ、
首輪をつけているが、鑑札のないポインター種らしき犬が
これにかかっていました。
Xは、警察等が、獣疫その他危害予防の為に
必要の時期に無主犬の撲殺を行う旨の県令の警察規定を誤解し、
無鑑札で、飼主不明の犬は無主犬とみなされると信じて、
その犬を撲殺したところ、器物損壊と窃盗の罪に問われました。
この裁判では、県令の警察規定を誤解したことに起因する
刑法上の財産犯の客体たる物の他人性についての錯誤が、
事実の錯誤か、法律の錯誤か、が問題となりました。
最高裁判所の見解
上被告人の各供述によれば被告人は
本件犯行当時判示の犬が首環はつけていたが鑑札を
つけていなかったところからそれが他人の飼犬ではあっても
無主の犬と看做されるものであると信じて
これを撲殺するにいたった旨弁解していることが窺知できる。
そして明治34年5月14日大分県令第27号飼犬取締規則第1条には
飼犬証票なく且つ飼主分明ならざる犬は
無主犬と看做す旨の規定があるが同条は
同令第7条の警察官吏又は町村長は獣疫其の他危害予防の為
必要の時期に於て無主犬の撲殺を行ふ旨の規定との関係上
設けられたに過ぎないものであって同規則においても
私人が檀に前記無主犬と看做される犬を撲殺することを
容認していたものではないが被告人の前記供述によれば
同人は右警察規則等を誤解した結果鑑札をつけていない犬は
たとい他人の飼犬であっても直ちに無主犬と
看做されるものと誤信していたというのであるから、
本件は被告人において右錯誤の結果判示の犬が
他人所有に属する事実について認識を欠いていたものと
認むべき場合であったかも知れない。
されば原判決が被告人の判示の犬が他人の飼犬であることは
判っていた旨の供述をもって直ちに被告人は判示の犬が
他人の所有に属することを認識しており本件について
犯意があったものと断定したことは
結局刑法三八一条一項の解釈適用を誤った
結果犯意を認定するについて
審理不尽の違法があるものといはざるを得ない。
そして右の違法は事実の確定に影響を及ぼすべきものであるから
原判決はその余の論旨について判断をまつまでもなく失当として、
とうてい破棄を免れない。
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