刑法246条2項の詐欺と処分行為と利得
(昭和30年4月8日最高裁)
事件番号 昭和27(あ)3806
この裁判では、
刑法246条2項の詐欺罪が成立するための要件について
最高裁判所が見解を示しました。
最高裁判所の見解
刑法246条2項にいう
「〔人ヲ欺罔シテ〕財産上不法ノ利益ヲ
得又ハ他人ヲシテ之ヲ得セシメタル」罪が
成立するためには、他人を欺罔して錯誤に陥れ、
その結果被欺罔者をして何らかの処分行為を為さしめ、
それによって、自己又は第三者が財産上の利益を
得たのでなければならない。
しかるに、右第一審判決の確定するところは、
被告人の欺罔の結果、被害者Aは錯誤に陥り、
「安心して帰宅」したというにすぎない。
同人の側にいかなる処分行為があったかは、
同判決の明確にしないところであるのみならず、
右被欺罔者の行為により、
被告人がどんな財産上の利益を得たかについても
同判決の事実摘示において、
何ら明らかにされてはいないのである。
同判決は、「因て債務の弁済を免れ」と判示するけれども、
それが実質的に何を意味しているのか、
不分明であるというのほかはない。
あるいは、同判決は、Aが、
前記のように誤信した当然の結果として、
その際、履行の督促をしなかったことを、
同人の処分行為とみているのかもしれない。
しかし、すでに履行遅滞の状態にある債務者が、
欺罔手段によって、一時債権者の督促を免れたからといって、
ただそれだけのことでは、刑法246条2項にいう
財産上の利益を得たものということはできない。
その際、債権者がもし欺罔されなかったとすれば、
その督促、要求により、債務の全部または一部の履行、
あるいは、これに代りまたはこれを担保すべき何らかの具体的措置が、
ぜひとも行われざるをえなかったであろうといえるような、
特段の情況が存在したのに、債権者が、債務者によって欺罔されたため、
右のような何らか具体的措置を伴う督促、
要求を行うことをしなかったような場合にはじめて、
債務者は一時的にせよ右のような結果を免れたものとして、
財産上の利益を得たものということができるのである。
ところが、本件の場合に、
右のような特別の事情が存在したことは、
第一審判決の何ら説示しないところであるし、
記録に徴しても、そのような事情の存否につき、
必要な審理が尽されているものとは、とうてい認めがたい。
ひっきよう、本件第一審判決には、
刑法246条2項を正解しないための
審理不尽、理由不備の違法があるものというべく、
同判決およびこれを支持して控訴を棄却した原判決は、
刑訴411条1号により破棄を免れないものである。
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