国税通則法65条4項にいう「正当な理由」
(平成27年6月12日最高裁)
事件番号 平成24(行ヒ)408
この裁判は、
匿名組合契約に基づき航空機のリース事業に出資をした匿名組合員が,
当該契約に基づく損失の分配を不動産所得に係るものとして
所得税の申告をしたことにつき,国税通則法65条4項にいう
「正当な理由」があるとされた事例です。
最高裁判所の見解
当初から適正に申告し納税した納税者との間の
客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,
過少申告による納税義務違反の発生を防止し適正な申告納税の
実現を図るという過少申告加算税の趣旨に照らせば,
過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として
国税通則法65条4項の定める
「正当な理由があると認められる」場合とは,
真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,
上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお
納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は
酷になる場合をいうものと解するのが相当である
(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日
第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁,
最高裁平成17年(行ヒ)第20号同18年10月24日
第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
匿名組合契約に基づき匿名組合員が営業者から
受ける利益の分配に係る所得区分について,
旧通達においては,前記2(3)①の取扱いの内容に照らすと,
その利益の分配が貸金の利子と同視し得るものでない限り,
個別の契約において匿名組合員に営業者の営む事業に係る
重要な意思決定に関与するなどの権限が
付与されているか否かを問うことなく,
匿名組合員が実質的に営業者と共同して
事業を営む者としての地位を有するものといえるという理解に基づいて,
当該事業の内容に従い事業所得又はその他の
各種所得に該当するものとされていたものと解される。
これに対し,新通達においては,上記(1)のとおり,
当該契約において匿名組合員に上記のような権限が付与されており,
匿名組合員が上記の地位を有するものと認められる場合に限り,
当該事業の内容に従い事業所得又はその他の各種所得に該当し,
それ以外の場合には,匿名組合員にとって
その所得が有する性質に従い雑所得に該当するものと解する見解に立って,
前記2(3)②の取扱いが示されるに至ったものと解される。
このように,旧通達においては原則として当該事業の内容に従い
事業所得又はその他の各種所得に該当するものとされているのに対し,
新通達においては原則として雑所得に該当するものとされている点で,
両者は取扱いの原則を異にするものということができ,また,
当該契約において匿名組合員に上記のような意思決定への
関与等の権限が付与されていない場合
(当該利益の分配が貸金の利子と
同視し得るものである場合を除く。)について,
旧通達においては当該事業の内容に従い事業所得又は
その他の各種所得に該当することとなるのに対し,
新通達においては雑所得に該当することとなる点で,
両者は本件を含む具体的な適用場面における帰結も
異にするものということができることに鑑みると,
平成17年通達改正によって上記の所得区分に関する
課税庁の公的見解は変更されたものというべきである。
そうすると,少なくとも平成17年通達改正により
課税庁の公的見解が変更されるまでの間は,納税者において,
旧通達に従って,匿名組合契約に基づき匿名組合員が
営業者から受ける利益の分配につき,
これが貸金の利子と同視し得るものでない限り
その所得区分の判断は営業者の営む事業の内容に
従ってされるべきものと解して所得税の申告をしたとしても,
それは当時の課税庁の公的見解に依拠した申告であるということができ,
それをもって納税者の主観的な事情に基づく
単なる法律解釈の誤りにすぎないものということはできない。
そして,本件匿名組合契約に基づきAが
本件営業者から受ける利益の分配につき,
前記2(3)①のような貸金の利子と
同視し得るものと認めるべき事情はうかがわれず,
本件リース事業につき生じた損失のうち
本件匿名組合契約に基づくAへの損失の分配として計上された金額は,
旧通達によれば,本件リース事業の内容に従い
不動産所得に係る損失に該当するとされるものであったといえる。
以上のような事情の下においては,
本件各申告のうち平成17年通達改正の前に
旧通達に従ってされた平成15年分及び同16年分の各申告において,
Aが,本件リース事業につき生じた損失のうち
本件匿名組合契約に基づく同人への損失の分配として
計上された金額を不動産所得に係る損失に該当するものとして申告し,
他の各種所得との損益通算により
上記の金額を税額の計算の基礎としていなかったことについて,
真にAの責めに帰することのできない客観的な事情があり,
過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお同人に
過少申告加算税を賦課することは不当又は
酷になるというのが相当であるから,
国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものというべきである。
・行政書士受験生にオススメのAmazon Kindle Unlimitedで読める本
スポンサードリンク
関連記事