交通事故の報告義務と黙秘権
(昭和61年3月17日)
Xは無免許で酒気帯び運転で制限速度を超えて
自動車を運転し、前方不注意で前方走行中の自転車に追突し、
自転車運転者を死亡させました。
さらに、当時の道路交通取締法施行令67条2項は
所轄警察職員へ事故の内容を報告する義務を
課していましたが、Xはこれを怠りました。
Xは、道路交通取締法施行令67条2項の規定について、
「事故の内容」には
刑事責任を問われる虞のある事項も含まれるから、
同項中その報告義務を定める部分は、
自己に不利益な供述を強要するものであって、
憲法38条1項に違反し無効と主張しました。
最高裁判所の見解
道路交通取締法施行令67条2項は、
これ等操縦者、乗務員その他の従業者に対し、
その一項において、右の場合直ちに被害者の救護又は道路における
危険防止その他交通の安全を図るため、必要な措置を講じ、
警察官が現場にいるときは、その指示を受くべきことを命じ、
その2項において、前項の措置を終つた際警察官が現場にいないときは、
直ちに事故の内容及び前項の規定により講じた措置を当該事故の
発生地を管轄する警察署の警察官に報告し、かつその後の行動につき
警察官の指示を受くべきことを命じているものであり、
要するに、交通事故発生の場合において、
右操縦者、乗務員その他の従業者の講ずべき
応急措置を定めているに過ぎない。
法の目的に鑑みるときは、令同条は、警察署をして、
速に、交通事故の発生を知り、
被害者の救護、交通秩序の回復につき
適切な措置を執らしめ、以って道路における危険と
これによる被害の増大とを防止し、
交通の安全を図る等のため必要かつ合理的な規定として
是認せられねばならない。
しかも、同条2項掲記の「事故の内容」とは、
その発生した日時、場所、死傷者の数及び
負傷の程度並に物の損壊及びその程度等、交通事故の態様に関する事項を
指すものと解すべきである。
したがつて、右操縦者、乗務員その他の従業者は、
警察官が交通事故に対する前叙の処理をなすにつき必要な限度においてのみ、
右報告義務を負担するのであって、それ以上、所論の如くに、
刑事責任を問われる虞のある事故の原因その他の事項までも
右報告義務ある事項中むに含まれるものとは、解せられない。
また、いわゆる黙秘権を規定した憲法38条1項の法意は、
何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について
供述を強要されないことを保障したものと解すべきことは、
既に当裁判所の判例とするところである。
したがって、令67条2項により前叙の報告を命ずることは、
憲法38条1項にいう自己に不利益な供述の強要に当らない。
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